( 5 )帳簿精査の準備としての決算センスの見極め

粉飾ポイントを具体的に発見し特定する業務をしばしば依頼されるのですが、決算書見るだけでインチキ臭プンプンなのによく銀行はおカネ貸すよなと感じることが少なくありません。ノルマが大変なんですね。

私の場合、比率分析だとか前期比較とかそんなお行儀のよいことではなく、会計データを入手してガッツリチェックするのですが、まずは前提として法人税申告書(と決算書類)を入手しています。

それは誰でもやっていることですが、決算書によって会社や会計事務所のセンスがわかるため、正しいか正しくないかのチェックの前にまずは決算書のセンスを見極めています。

総論

会社を売りたいんだけど粉飾がありそうで「でも会計事務所に任せっきりでどこを粉飾しているのかよくわからない」などの理由で、粉飾ポイントを具体的に発見し特定する業務をしばしば行っています。

私の場合、比率分析だとか前期比較とかそんなお行儀のよいことではなく、会計データを入手してガッツリチェックするのですが、まずは前提として法人税申告書(と決算書類)を入手しています。

調査にあたってはデータをそれなりに分析するまでは質問はしません。こちらに誤解や理解不足があるとと的外れな質問をしてしまうので、そのようなヘマをやらかして足元見られないように注意しています。

逆の立場では、専門家からの質問の内容によって、その専門家の知見や能力を推し量っています。

法人税申告書

法人税申告書を入手するのは誰でも同じです。法人税申告書だけではなく、決算書(貸借対照表、損益計算書、株主資本等変動計算書)、勘定科目内訳書を入手するのも同じです。

最終的には、たとえ受信通知や税務署の収受印があろうが、この法人税申告書はホンモノなのかどうか確かめるために、納税や還付が実際に行われているか(銀行口座の入出金や納付書等)を確認しますが、とりいそぎほぼほぼホンモノであろうという前提で入ります。

別表五(一)

まずは法人税申告書別表五(一)を見ます。ここがキレイだと、ああガチンコ税務会計をしているんだなということがわかります。

ガチンコ税務会計とは、会計上の損益が税務上の損金・益金とほぼ同じことを意味しています。古くは「赤字決算なのに減価償却費計上するなんてバカ」とか平然と唱えちゃうようなことです。

決算書を見なくても賞与引当金や退職給付債務(せめて自己都合要支給額)が計上されていないことがすぐにわかります。

ガチンコ税務会計が悪いわけではありません。法人税の申告書は法人税の計算を正しくしていることが大事なわけで、消費税の納付差額や還付差額による雑損失や雑収入もキチンと決算の中で取り込んでいるんだなと理解してます(実際は「あれ?」ということも少なくありませんが・・・)。

別表五(二)

別表五(二)は「租税公課の納付状況等に関する明細書」と言います。あまり重視されないかもしれませんが、私は決算のセンスを確認する点でわりと重んじています。

別表五(二)の下のほうは「納税充当金の計算」です。「期末納税充当金」は貸借対照表では負債の部の「未払法人税等」の額と一致しています(「未払法人税等」とは別に「未払事業税等」を独立掲記している場合はその合計額となります。)。

ここで、私は納税充当金の金額と申告書上の未納税額の差額をチェックします。

決算日後のんびりと決算ができる会社では未払法人税等の額と申告書上の未納税額(法人税、事業税や住民税など)はピタリ一致しています。決算日以後数日で決算数値を確定しなければならないような会社では一致しないこともあります。ただあまりにも差額が出ている場合は見積りに問題があったか何らかの意思があったのかなという印象を持ちます。

まれにですが、法人税申告で計算された事業税等の未納税額の損金算入時期のタイミングが翌期であることからこれを計上しないところもあります。これぞ税務会計の極みといえます。

そして、「損金経理をした納税充当金の額」と損益計算書の「法人税等」の額が一致しているか確認してます。

「損金経理をした納税充当金の額」と損益計算書の「法人税等」の額が一致していると「センスいいな」と思います。

つまり、予定納税の額や受取利息や受取配当金に係る源泉所得税を期中では「租税公課」や「法人税等」ではなく負債の「未払法人税等」の借方で処理(残高はマイナスになります)し、「法人税等」はゼロにしておき、最終的な当期純利益や納税額をいろいろとシミュレーションしながら最後の(借方)法人税等(貸方)未払法人税等の仕訳を入れているんだろうなとイメージします。

もちろん、これが一致しないからといって間違いではありません。ただ、一致していないということは「予定納付額を未払法人税等(貸借対照表の負債)のマイナスではなく法人税等(損益計算書)で処理している」あるいは「受取利息や受取配当金に係る源泉所得税を租税公課で処理している」ということです。

「税金の計算が正しければ決算書の表示などどうでもいい」あるいは「「決算しました。その結果税金はこうでした。納めておいてください。以上」というスタンスなんだな」というイメージを持ちます。

決算書

多くの人が重視する損益計算書ですが、基本的には損益計算書はあまりよく見ません。もちろん赤字か黒字かとか、どの程度の赤字か黒字かは見ますけれども。お行儀のよい方々はよく「ナントカ比率とかで分析」とかおっしゃいますが、変な話、ナントカ比率で分析されてオカしいと思われないためにいろいろ調整しているものです。

その代わりに貸借対照表をよく見ます。

ついつい損益計算書の数字ばかりにとらわれていろいろお化粧するところもありますが、複式簿記だけに、そのシワ寄せは貸借対照表に出てきます。

決算書のセンス、つまり、「決算は損益(つまり税金の計算)がよければそれでよく、貸借対照表などどうでもいい」発想か、それ以外かということです。

どんなに中味はグチャグチャでも、パッと見がキチンとしていると、なんかちゃんとしているように見えてしまうのが不思議です。決算も見た目ですね。

前払費用

資産の部に前払費用がない場合には、期間損益をキチンとしようという意識がないんだなというイメージを持ちます。

計上してあったとしても、せいぜい銀行保証料の前払分だけだったりします。ここは税務調査であまりにもおなじみなのでガチンコ財務会計では基本中の基本です。

ポイントは銀行保証料以外の部分、たとえば事業所を賃借している場合、多くの場合は前家賃のため前払費用に計上される額があるはずです。 「そうしないと地代家賃が12ヶ月にならない」と主張されそうですが、「それは損益(つまりは税金の計算)がよければそれでよく、貸借対照表などどうでもいい」という発想なんだと理解します。

一般論として、前払費用にして費用を減らせばいいのに、インチキな売上高を盛って利益を出すのは本当にセンスが悪いなと思います。

先に申し上げた銀行保証料もいわゆるワンイヤールールに忠実に「前払費用」と「長期前払費用」としているとやはりセンスがいいなと思います。

繰延資産

貸借対照表の繰延資産の部に項目や数値があると、ウーンとなってしまいます。

と申しますのは、中味はたいてい「法人税法上の繰延資産」だからです。

いわゆる法人税法上の繰延資産を貸借対照表の繰延資産にしているとガチンコ税務会計だなと思いますし(そのくせ別表がなかったりします)、逆に「長期前払費用」や「前払費用」で処理しているとセンスがいいなと思います。

前受金

負債の部に前受金がない場合にも、期間損益をキチンとしようという意識がないんだなというイメージを持ちます。

何らかの継続サービスを提供していて保守料を受け取っている場合に、もし半年や1年分を前受けしている場合にはその分を前受金にすべきなのに、ムダに売上高を計上して法人税や消費税も納めていますよねということになります。

「確定しているから益金じゃないか」と批判されそうですが、本当にそうなのなら別表四と別表五(一)で処理すればよい話ですよね。

「売上高を背伸びして計上している(背伸びとか足が地に着いていないとかを超えて「宙づり」になっていることも)」と意識していればまだマシで、マズいのはそういう意識など皆無、この考えで経営計画とか平然と立ててしまうことです。

1年以内返済長期借入金

「長期借入金」がある場合に、「1年以内返済長期借入金」があるかどうかをチェックしています。

長期借入金のうち決算日後1年以内に返済するものは流動負債に掲記するのがルールですが、これを行うと財務比率(流動比率)が悪くなります。

ただ、実際には「流動比率が悪くなるから1年以内返済長期借入金にしない」というより「そもそもそういう意識がない」ことが多い印象を受けます。

一般論として、「1年以内返済長期借入金」がない決算書に何の手も加えずに流動比率がどうだとかとご指摘する専門家っていかがなものかと思います。

賞与引当金、退職給付引当金

法人税申告書別表五(一)を見ただけでわかることですが、賞与引当金や退職給付引当金を計上しない非上場会社はものすごく多い印象を受けます。

ガチンコ税務会計からすると「損金にならない費用を計上して利益を減らすなんてバカ」ということになります。

裏を返せば、賞与引当金や退職給付引当金がないということは、それだけで損益計算書は利益多めということになります。

( つづく )