( 3 )経理上の労務費(とその概算額)の計上
制度上のみならず、管理会計上も、それなりに真剣にソフトウェアの原価計算をしようと思う場合には、給料の締め日などによる期間的なズレ、(月次)決算のスケジュールなどによる金額不確定など、概算額を計上しなければならないことがあります。
この場合には、費用勘定上も、負債勘定上も、概算額計上(とその洗い替え)のための科目を設定することをオススメします。
概算額計上の必要性
ソフトウェアの原価計算の中心は、労務費の計算です。
労務費は、ざっくり申し上げると、賃率に作業時間を乗じた額です。
一方で、労務費計算は、少なくとも制度上必要とされている会計からすると、期間で区切り、測定されます。
おそらく圧倒的大多数の企業は月末日が決算日ですが、給料の締めが月末であるとは限りません。また、締めが月末であっても、月次決算までに金額が固まらないこともあります。
そこで、まず、会計上で給料も月末締めにしなければなりません。
たとえば、月末締めでない場合には、締め日から月末日までの給料発生額を計上することになります。
「給料毎月同じなんだけど」に対しまして
この点、「給料は毎月同じなんだから意味がない」という批判が考えられます。
これについては、「毎月給料が同じなんだからそのままでいいんだ」という考え方と、「そもそも月単位で金額を集計するのが会計であるから、締め日以降月末日までの発生額を集計したところたまたま同じだった」と考えるのかの違いと思われます。
なるほど、本当に従業員数がまったく変化なく、昇給等もなく、給料は毎月同一で、残業代もまったく発生しない・・・そんな状況であれば、締め日以降月末日までの発生額は計上しなくてもよいかもしれません。
しかし、たとえば給料の締めが20日締めである会社で、ある月の1日から入社したエンジニアについて、その月の20日の給料について、満額支払うか、20日分に相当する額とするかはそれぞれですが、エンジニアの給料について、仕事の状況に応じて研究開発費やソフトウェア仮勘定に区分している場合、そのエンジニアの21日以降の仕事内容を月末締めで把握していても、各勘定に配賦すべき金額は計上されていないため、困ったことになります。
給料の計上
さて、概算額の計上の必要性を説いただけでは、あまり説得力がありません。具体的にどうすればよいでしょうか。
締め日以降月末日までの給料の発生額については、金額の精度によらず、すなわち、金額が正確であるかにかかわらず、費用勘定も負債勘定も別の科目で仕訳することをオススメします。
これにより、同一の勘定科目のなかに実額(確定額)と概算額が混在することがないために、二重計上や洗い替えモレなどが容易にチェック(未然に防ぐ)ことが可能だからです。
なお、給料等は消費税は不課税取引ですが、同じように課税取引に関する概算額計上も、別の科目を設定し、消費税は対象外として仕訳すべきです。
設例
給料確定支払額の発生(前月21日から当月20日)
給料について20日締め25日支払いの会社で、前月21日から当月20日までの給料は10,000でした。
| (借) | 給料 | 10,000 | (貸) | 未払金 | 10,000 |
給料確定支払額の支払い
源泉所得税などの預り金はとりあえず割愛します。
| (借) | 未払金 | 10,000 | (貸) | 預金等 | 10,000 |
締め日以降月末日までの給料の発生(当月21日から当月末日)
締め日以降月末日までの給料の発生については、金額の精度によらず、費用勘定も負債勘定も別の科目で仕訳することをオススメします。
帳簿上、実額(確定額)と概算額を明確に区分するのです。
給料勘定の補助科目、あるいは、新たな勘定科目を設定して、実額(確定額)と区分します(ここでは「給料(概算)」)。また、負債の勘定科目も確定額とは異なる勘定科目(ここでは「未払費用(概算)」)。タイミング的には月次決算として仕訳すると思われます。
| (借) | 給料(概算) | 2,000 | (貸) | 未払費用(概算) | 2,000 |
前月の締め日以降月末日までの給料の戻し入れ(前月21日から前月末日)
前月末に計上した締め後以降月末日までの給料を戻し入れます。通常は、毎月1日付けで仕訳計上することが多いと思われます。
| (借) | 未払費用(給料) | 3,000 | (貸) | 給料(概算) | 3,000 |
まとめ
以上から、当月の給料発生額は、9,000(=10,000‐3,000+2,000)となります。
この額は、まさに当月1日から末日までの金額であり、作業時間等で各勘定科目に配賦されることになります。
賞与の計上
月初から月末日までの発生額をキチンと計上すべきなのは、給料だけではありません。
月次決算で賞与引当金相当額を計上するかどうかは「月次決算で何がしたいのか」に依存するため、なんともいえませんが、少なくともソフトウェア原価計算を行うときは、賞与分を織り込む必要があります。
単純な確定金額(支払額)ベースでいえば、たとえば11月の金額よりも賞与が入る12月は人件費が増えます。しかし、この12月支払いの賞与の支給算定期間が6月から11月までだとするとどうでしょうか。12月の賞与を含めた高額の人件費が12月の作業時間に従って配賦されてしまいます。本来ならば、賞与は6月から11月までが支給対象期間だとすると、単純に期間按分するとしても、11月の原価計算には賞与支払額の1/6を含め、逆に、12月の原価計算には賞与支払額の1/6にとどまることになります。
いっぽう、12月や6月に賞与が確定したときにいきなり会計計上すると、原価計算に反映しずらくなったり、月次決算にデコボコが生じてしまいます。また、四半期決算などの際も概算額ベースでソフトウェア原価計算をすることになります。
そこで、賞与額も確定する前の概算額を月次で計上し、実際支給時に洗い替える処理が考えられます。
いわゆる決算賞与などの考え方
たとえば、いわゆる16分割など、賞与といっても(あらかじめ合意された)支払方法の問題にすぎないのであれば、賞与支給額は原価に織り込まれるべきものですし、また織り込まなければならないと考えられます。このため、賞与支給額を適切な期間に配分することになります。
いっぽう、決算賞与などその時々の全社的な業績によって支給されたり、個々の従業員等の考課上の要素で特別に支給される賞与もあります。逆に、想定された賞与が減ることもありえます。
この場合、概算で月次で計上し、かつ、計算していた部分はいったんリセットして再計算するのが原則的ともいえますが、理屈の付け方によっては、「原価外項目」として原価計算の対象からのぞく、つまり、単純な期間費用とするという考え方もあると思われます。
設例
賞与の各月概算計上
毎月1,000を概算計上するものとします。
勘定科目としてはいろいろありますが、ここでは賞与(概算)と未払費用(賞与)を用います。
| (借) | 賞与(概算) | 1,000 | (貸) | 未払費用(賞与) | 1,000 |
6ヶ月分の額は6,000ということになります。
賞与確定額の計上
賞与確定額は7,500だったとします。
仕訳処理としてはいろいろありますが、ここでは、概算計上を洗い替えて、確定賞与額を計上することとします。
| (借) | 未払費用(賞与) | 6,000 | (貸) | 賞与(概算) | 6,000 |
| (借) | 賞与 | 7,500 | (貸) | 未払金 | 7,500 |
補足
たとえば、賞与支給対象期間も、たとえば、6月21日から11月20日までを12月に支給するということになるとすると、給料の場合と同じように、毎月21日から月末日までを概算計上でも織り込むべきかという問題がでてきます。
だとすると、12月に支給するとしても、12月21日から12月31日までの次の賞与支給対象期間の概算計上が必要となります。
さらに、賞与には法定福利費(健康保険料や厚生年金保険料)が課されますが、だとすれば、概算計上時であっても、法定福利費相当額も暫定計上しなければ合理的とはいえないと思われます(下記参照)。
退職給付費用の計上
退職給付費用をソフトウェア原価計算に織り込む場合にも、賞与と同様に概算額を計上します。
期末決算などで退職給付費用が確定した場合には、上記の賞与と同じく洗い替えを行うとよいと思われます。
科目の区分も賞与と同じような期末確定額と期中の概算計上額で分けるべきだと思います。
法定福利費の計上
ソフトウェア原価計算をどこまで厳密にやるかはさまざまですが、より実態を反映するのは、各従業員レベルの作業に応じてダイレクトにコストを集計・配賦することです。
なぜなら、給料ベース(賃率)の異なる従業員等がそれぞれ作業をしていれば、最終的な金額となると、給料ベースの高い従業員が行った作業はより高いコストとなるはずなのに、すべての従業員の給料をすべての従業員の作業時間でやってしまうと、それだけアバウトになってしまうからです。
では、たとえば、個々の従業員ベースの作業に応じて原価計算を行おうとすると、単純に給料や賞与だけでは十分ではありません。これに伴う法定福利費もキチンと集計しなければなりません。
このうち、健康保険料や厚生年金保険料(社会保険料)については、定時改定により個々の従業員ごとに報酬月額が決まっているため、計上はそれほど困難ではないと思われます。いわゆる随時改訂が必要となり報酬月額の変動が起こらない場合には、毎月の多少の変動によって金額を算定する必要がないからです。
ただし、注意点は次のとおりです。
給料額と報酬月額の関係
各月の給料発生額と報酬月額はダイレクトに結びついていません。この点が労働保険料と異なります。
たとえば、昇給等による固定的賃金等の増加などによって2等級以上の差が生じることとなっても、実際に改定後の報酬月額となる(随時改定)のは、増加が生じてから3ヶ月後(ということになります。給料等が増額された月からすぐに発生するわけではありません。
給料発生と報酬月額の期間的な対応
報酬月額の発生月と、このうち従業員等から預かる額がズレている場合には、そのズレを調整しなければなりません。たとえば、3月に発生する報酬月額に対応する従業員等からの預かりを4月の給料のときに行う場合、ズレが生じることになります。
賞与額の概算計上とこれに係る社会保険料の概算計上
いっぽう、賞与に対しても法定福利費は発生します。もちろん、確定賞与額に対して発生するわけですが、賞与の概算額をベースに原価計算をしなければならない場合には、この賞与の概算額に係る社会保険料概算額も合わせて取り込む必要があります。
ややこしいですが、支給対象計算期間である以上、賞与額は潜在的に毎月発生しているわけであり、だとすると、これに係る社会保険料も合わせて発生しているというわけです。
労働保険料について
労働保険料については、保険料は概算計上による前払い、保険料の発生は実額ベースによって発生するという複雑な構造となっています。
まとめ
従業員の作業内容から原価計算を適切に算定するためには、まず発生する人件費について期間的に整備しなければなりません。
つまり、決算日が末日ならば、1日から末日までの発生額をキチンととらえていなければなりません。
ここで手を抜いてしまうと、どんなに詳細に作業時間を算定して配賦しても、その基礎となる金額がゆがんでいてはイマイチとなってしまいます。
キレイな服を着る前に、まずお風呂に入ろうということです。
( つづく )