( 9 )一般モデル(概算計上あり)の設例

概算計上が頻発する一般のモデルを想定します。

(月次)決算が月末までの期間であると考えれば、給料の締め日が月末でない場合には、締め日から月末日までの発生額を概算計上しなければなりません。給料とヒモ付きの関係にある法定福利費も同様です。

また、賞与については、実際の支給額が決定するまでは、賞与に係る法定福利費と合わせて、その支給対象期間にわたって概算額を計上することになります。しかも、支給対象期間の末日が月末でない場合には、やはり締め日から月末日までの部分を計上することになります。

一般モデル

単純モデルは、概算計上とその戻し処理が起こらないような仮定を置きましたが、一般的なモデルは概算計上とその戻し処理が頻繁に起こることになります。

  • 3月決算とします。
  • 原価計算は月次決算ごとに行います。
  • 給料の締め日は20日締めとします。
  • 賞与の支給日は7月と12月です。
  • 賞与の支給対象期間は11月21日から5月20日と5月21日から11月20日です。
  • 退職給付費用を計上します。

ポイントは、「会計のための計算のため、勘定科目別にデータを集計すること」「(完全にやり直しも含めて)データの枠組みや集計方法それ自体の変更にも柔軟に対応できるようなワークシートとすること」です。

通常の給料等の発生

給料の締め日は20日締めのため、支払われる給料は前月21日から当月の20日までということになります。

そこで、当月の当月21日から当月末日までの給料を見込み計上するとともに、前月に見込み計上した前月21日から前月末日までの給料を取り消す処理を行います。

給料の締め日が月末でないために概算額を計上する理由は、1日から末日までに発生した費用額を出して月次決算をより適正なものとするばかりでなく、これと同期間に発生した作業内容を対応させることで、原価計算をより適正化させるためにあります。

確定分(前月21日から当月の20日まで)と、見込み分は、勘定科目(補助科目)を分けて処理するとよいと思われます。

仕訳

前月に見込み計上した前月21日から前月末日までの給料を取り消し

(借) 未払費用(概算) 2,050 (貸) 給料(概算)
通勤費etc(概算)
2,000
50

確定分(前月21日から当月の20日まで)の計上

(借) 給料
通勤費etc
10,000
200
(貸) 未払金 10,200

今月21日から今月末日までの見込み計上

(借) 給料(概算)
通勤費etc(概算)
3,000
10
(貸) 未払費用(概算) 3,010

一人別のワークシート

給料締め日が月末でないため、確定額分と概算額分のふたつのワークシートを持つことになります。

法定福利費(社会保険料等の会社負担分)を算定する基礎となりますが、確定額を基礎とすることから、確定額をベースにして算定することになります。

賃金総額から算定される法定福利費(労働保険料)

給料の締め日が月末でないために概算額を計上する理由は、1日から末日までに発生した費用額を出して月次決算をより適正なものとするばかりでなく、これと同期間に発生した作業内容を対応させることで、原価計算をより適正化させるためにあります。

労働保険料は確定申告が年1回であることと、保険年度は4月から翌年3月であることから、3月決算でないかぎり、理論上は概算額(といってもほぼ実額に近い未確定額)が計上されることになります。

だとすると、給料等の確定額と概算額を合計した1日から末日までに発生した給料等の額に対して労働保険料の料率を乗じた額をもって月次計上額とする方法も考えられます。

しかし、労働保険料も最終的には確定額に基づいて金額を決めなければならないこと、労働保険の確定申告は1日から末日までに発生したという理論的なものではなく支払いが確定した額をベースにしていることから、給料等の確定額と概算額を合計した額で労働保険料を計算して仕訳計上するよりも、給料等の確定額と概算額に分けて金額を算定し、毎月洗い替え処理を行う方が望ましいと考えられます。

なお、労働保険料は確定申告が年1回のため、給料等の確定額をベースにしていても、月次の計上額は厳密には概算額となります。そこで、同じ未払費用(概算額)であっても科目を分けるなどで対応することが考えられます。

仕訳

前月に見込み計上した前月21日から前月末日までの給料概算額に対する労働保険料概算額の取り消し

(借) 未払費用(概算) 20 (貸) 法定福利費(給・概算) 20

確定分(前月21日から当月の20日まで)の給料確定額に係る労働保険料の計上

(借) 法定福利費(給料) 100 (貸) 未払費用(給料) 100

今月21日から今月末日までの給料見込み計上に係る労働保険料概算額の計上

(借) 法定福利費(給・概算) 22 (貸) 未払費用(概算) 22

一人別のワークシート

一人別の賃金総額(給料等に通勤費その他を加えた額)にそれぞれの料率(のうち会社負担分)を乗じて労働保険料を計算します。

給料の締め日後から末日までの概算額の計上があることから、これに対応する労働保険料の計算も行います。

標準報酬月額から算定される法定福利費(社会保険料)

健康保険料等の社会保険料については、実際の給料等の額ではなく、標準報酬月額によって算定されます。

だとすると、給料等の締め日等による概算計上にとらわれず、その月に発生する額を計上すれば足りるということになると思われます。

もっとも、「その月」というのは、社会保険料の納入告知書が送達するのが翌月の後半であるため期間対応をさせるには概算額(未確定額)を計上する必要があるからです。

仕訳

当月分に係る社会保険料の計上

(借) 法定福利費(給料) 1,000 (貸) 未払費用(給料) 1,000

一人別のワークシート

注意したいのは、労働保険料とは異なり、実際の給料等によって保険料が決まるのではなく、標準報酬月額によって保険料が決まるということです。 随時改定となるような給料等の増減があっても、直ちにその月から標準報酬月額とこれに基づく社会保険料の額が変わるわけではありません。いっぽうで、育児休暇等が発生した場合には保険料の発生が停止するため注意が必要です。

退職給付費用の計上

原価計算に取り込まれるべき労務費は、給料だけではありません。退職給付費用も取り込むことになります。

退職給付費用は、期中あるいは期末の諸要因により変動があるため、金額が変動する場合には洗い替え処理を行うことになります。

なお、退職給付費用については、マクロ的にみると期間定額基準のほかに給付算定式基準がありますが、個々の事業年度で考えた場合には、その事業年度の発生額を12等分すれば足りるのではないかと思われます。

仕訳

(借) 退職給付費用 100 (貸) 退職給付引当金 100

一人別のワークシート

退職給付費用が変動することがあるため、期中の計上額と期末の確定額に差が生じることを想定しながらワークシートを作成する必要があると考えられます。

賞与概算額の月割仮計上

この例では、賞与の支給日は7月と12月で、賞与の支給対象期間は11月21日から5月20日と5月21日から11月20日です。

このため、1月から6月までの月次決算と7月から12月までの月次決算でそれぞれ7月と12月の支給見込額の1/6を計上することになります。

支給対象期間の締め日は20日ですが、ここでは見込み額を1/6にするだけなので、とくにこだわる必要はないと思われます。

ただし、3月決算の場合には、11月21日から3月31日までの概算額が決算上残ることになります。そして、細かく考えると11月21日から11月30日までの10日間と12月から3月までのまるまるひと月分の計上金額は異なるだろうと思われます。

仕訳

(借) 賞与(仮) 2,000 (貸) 未払費用(賞与) 2,000

仮計上なので、仕訳を入力する勘定科目(補助科目)も実額を入力する科目とは別にするとベターです。

一人別のワークシート

仮計上の金額は、実際に賞与が支給されたときはこの支給対象期間に係る部分は実際支給額(を支給対象期間に配分した額)に入れ替えることになります。

とはいえ、仕訳計上の金額の根拠資料となるため、データ自体は保存しておくことが必要です。

なお、このモデルの場合、11月21日から3月31日(決算日)までは実際の支給額は確定していないため、会計上は概算計上額で最終的な原価計算を行うことになります。

賞与概算額の法定福利費(労働保険料及び社会保険料)

仕訳

(借) 法定福利費(仮) 220 (貸) 未払費用(賞与) 220

仮計上なので、仕訳を入力する勘定科目(補助科目)も実額を入力する科目とは別にするとベターです。

概算計上のため、実際支給額が計上されるときは洗い替えられることになりますが、実際支給額に対応しない支給対象期間に相当する部分は洗い替えされないまま残ることに注意する必要があります。

一人別のワークシート

概算で仮計上した額にそれぞれの料率(のうち会社負担分)を乗じて労働保険料や社会保険料を計算します。

賞与の支給と仮計上の取り消し

賞与の支給があった場合には、支給期間に対応する仮計上額から実際支給額を計上する洗い替え処理を行います。

仕訳

6ヶ月の処理の合計金額は次のとおりです。

(借) 賞与(仮) 12,000 (貸) 未払費用(賞与) 12,000
(借) 法定福利費(仮) 1,320 (貸) 未払費用(賞与) 1,320

これを取り消します。

(借) 未払費用(賞与) 12,000 (貸) 賞与(仮) 12,000
(借) 未払費用(賞与) 1,320 (貸) 法定福利費(仮) 1,320

実際の支給額を計上します。

(借) 賞与 15,000 (貸) 未払金 15,000
(借) 法定福利費(賞与) 1,650 (貸) 未払費用(賞与) 1,650

一人別のワークシート

実際支給額のため、給料ソフト等からもデータを取ることができます。

賞与は労働保険料の場合も社会保険料にも課されるため、実際の賞与支給額に係る法定福利費をあらためて計算します。

ところで、各月の一人別の労務費原価計算は、各月の給料等の発生額だけで計算すればよいというものではありません。

賞与の実際支給額とこれに係る法定福利費の額を、その賞与支給対象期間にあらためて配分することになります。

12月に賞与支給があった場合には、その支給額や支給額に係る法定福利費を、この支給対象期間である5月21日から11月20日までの期間に再配分して原価計算を行うことになります。

5月分の原価計算を行うときには、12月の賞与実支給額のうち5月21日から5月31日までに再配分された額と、すでに支給され再配分されている7月の賞与実支給額の5月1日から5月20日までの額で計算を行います。

なお、これらを合計して原価計算したほうがいいのか、合計しないで原価計算したほうがいいのかは、原価計算の精度をどう考えるかによります。どちらも実額であり、7月支給額と12月支給額がまったく同じ金額であれば、少なくとも賞与分に限り(法定福利費は料率の変更等で異なる可能性はあります。)合計しても同じだと思われますが、7月支給額と12月支給額が金額が異なる場合には、5月20日までの金額と5月21日以降5月31日までの金額は異なるわけですから、作業時間を5月20日まで区切るかどうかによって算出される原価が異なることになります。

11月分については、実際に賞与が支給されたのが11月20日までの期間に対応している部分のため、11月20日までに対応する部分は実際支給額、11月21日から11月30日までに対応する部分は概算額となります。このため、会計処理の関係上もあり、合計はしないほうがベターと思われます。

12月分から3月分については、期末までに賞与支給額(及びその法定福利費)の額が固まらないことから、概算額の計上となります。この期間はまるまる同一の支給対象期間に含まれていることから、5月や11月のように20日で区切らなければならないというわけではないので、ざっくり月割りで計上して問題ないと思われます。

( つづく )