( 8 )仕訳への展開

これまでのまとめとして、単純モデルによる仕訳と、仕訳金額の算定の基礎となるワークシートについてのポイントを解説いたします。

具体的には、給料とこれに係る法定福利費を計上し、さらに賞与額(とこれに係る法定福利費)を支給対象期間にわたって各月に配分したところで、各作業内容に配賦するのです。

単純モデルの仮定

あらためまして単純モデルの仮定は次のとおりです。

  • 12月決算とします。
  • 原価計算は年1回決算時にのみ行います。
  • 給料の締め日は月末締めとします。
  • 月次決算の締めまでに給料額が確定しているものとします。
  • 賞与の支給日は6月30日と12月31日(便宜上)とします。
  • 賞与の支給対象期間は1月1日から6月30日と7月1日から12月31日とします。
  • 退職金規定はないものとします。

通常の給料等の発生

単純モデルでは給料の締め日は月末なので、締め日以降月末までの給料分を概算(未確定)計上する必要はありません。

なお、法定福利費(社会保険料や労働保険料)の基礎となる額(賃金総額や標準報酬月額)には通勤交通費も含まれているため、ここでは通勤交通費も計上しておきます。通勤交通費等に関する問題点は下記でご説明します。

仕訳

(借) 給料
通勤費etc
10,000
200
(貸) 未払金 10,200

一人別のワークシート

給料の締め日が月末であるため給料ソフト等からデータを切り出すことによって足りると思われます。給料締め日が月末でない場合には、給料締め日から月末日までの給料額を算定するシートが必要となります。

法定福利費(社会保険料等の会社負担分)を算定する基礎となるため、給料勘定のみならず、通勤費や現物給与なども抽出します。

賃金総額から算定される法定福利費(労働保険料)

仕訳

(借) 法定福利費(給料) 100 (貸) 未払費用(給料) 100

一人別のワークシート

一人別の賃金総額(給料等に通勤費その他を加えた額)にそれぞれの料率(のうち会社負担分)を乗じて労働保険料を計算します。

  • 賃金総額
  • 労災保険料
  • 雇用保険料会社負担額
  • 一般拠出金

労働保険料については、賃金総額(実際の給料と実際の通勤交通費その他)で計算されるため、従業員等から預かる雇用保険料の金額から逆算して会社負担分を計算するという方法も可能です。ただし、単純モデルとは異なる給料締め日が月末日でない場合には月ズレによる概算計上分に対応する金額を別途把握する必要があります。

標準報酬月額から算定される法定福利費(社会保険料)

仕訳

(借) 法定福利費(給料) 1,200 (貸) 未払費用(給料) 1,200

注意したいのは、社会保険料の発生月と従業員負担分の給料からの控除がズレている場合です。ズレていることは誤りではなくむしろ一般的な方法です。誤りだと申し上げているのではなく、期間対応をキチンとさせるならば、(控除のタイミングを前倒しするのではなく)会計上調整すべきということです。

なお、単純モデルでは退職金規定はない(退職給付会計を要しない)ことにしています。このため、年金基金等への掛金は法定福利費として処理します。

なお、退職金規定があり、退職金の要支給額のうち一部を基金から支給するような場合には原則として退職給付会計によることになります。この場合、退職給付費用を計上して年金基金等への掛金は法定福利費ではなく退職給付引当金のマイナス(借方処理)となります。会計上費用として計上した法人税法上は退職給付費用は全額損金とはなりませんが、負債(退職給付引当金)のマイナスとし費用として計上していない掛金は法人税法上は損金になります。いずれも法人税申告書上で調整(申告調整)します。この申告調整した額に対して税効果会計が入ります。

中小企業退職金共済事業本部(中退共)に対して従業員別に掛金を支払っている場合でも同様です。

一人別のワークシート

一人別の標準報酬月額にそれぞれの料率(のうち会社負担分)を乗じて労働保険料を計算します。

  • 標準報酬月額
  • 健康保険料会社負担額
  • 介護保険料会社負担額
  • 厚生年金保険料会社負担額
  • 児童手当拠出金
  • 厚生年金基金掛金会社負担額(標準掛金、加算掛金、事務費掛金など)

いっけん面倒のように思われますが、給与計算ソフトからデータを落とすことによって比較的楽に計算することもできます。ただし注意したいのは、労働保険料とは異なり、実際の給料等によって保険料が決まるのではなく、標準報酬月額によって保険料が決まるということです。

随時改定となるような給料等の増減があっても、直ちにその月から標準報酬月額とこれに基づく社会保険料の額が変わるわけではありません。いっぽうで、育児休暇等が発生した場合には保険料の発生が停止するため注意が必要です。

賞与概算額の月割仮計上

単純モデルでは、賞与の支給日は6月30日と12月31日(便宜上)で、賞与の支給対象期間は1月1日から6月30日と7月1日から12月31日です。

このため、1月から6月までの月次決算と7月から12月までの月次決算でそれぞれ7月と12月の支給見込額の1/6を計上することになります。

なお、単純モデルでは12月決算ですが、この支給対象期間の場合では6月決算や12月決算でない場合には、期末に賞与概算額が計上されることになるため、概算額といえどもある程度の精度が求められると思われます。

さらに、単純モデルでは、賞与支給対象期間が月初から月末の6ヶ月分ですが、たとえば、賞与の支給対象期間は11月21日から5月20日と5月21日から11月20日の場合にも、期末には10日分の賞与概算額が理論的に計上されるべきことになります。

仕訳

(借) 賞与(仮) 2,000 (貸) 未払費用(賞与) 2,000

仮計上なので、仕訳を入力する勘定科目(補助科目)も実額を入力する科目とは別にするとベターです。

一人別のワークシート

賞与額の概算計上なので、実際の支払いはないために給料ソフト等からのデータはありません。そこで、給料用のワークシートを調整して作ります。

概算計上のため、実額が計上されるときは洗い替えられることになります。この単純モデルでは、期末に概算計上額が残りませんが、その場合であっても、仕訳計上の金額の根拠資料として残しておくべきです。

賞与概算額の法定福利費(労働保険料及び社会保険料)

仕訳

(借) 法定福利費(仮) 220 (貸) 未払費用(賞与) 220

仮計上なので、仕訳を入力する勘定科目(補助科目)も実額を入力する科目とは別にするとベターです。

概算計上のため、実額が計上されるときは洗い替えられることになります。

一人別のワークシート

概算で仮計上した額にそれぞれの料率(のうち会社負担分)を乗じて労働保険料や社会保険料を計算します。

概算計上のため、実額が計上されるときは洗い替えられることになります。この単純モデルでは、期末に概算計上額が残りませんが、その場合であっても、仕訳計上の金額の根拠資料として残しておくべきです。

賞与の支給と仮計上の取り消し

単純モデルでは、決算月と賞与支給対象期間の関係で期末に概算額の残高が残らないことから、反対仕訳を計上して仮計上額を取消し、実額を計上する洗い替え処理を行います。

仕訳

6ヶ月の処理の合計金額は次のとおりです。

(借) 賞与(仮) 12,000 (貸) 未払費用(賞与) 12,000
(借) 法定福利費(仮) 1,320 (貸) 未払費用(賞与) 1,320

これを取り消します。

(借) 未払費用(賞与) 12,000 (貸) 賞与(仮) 12,000
(借) 未払費用(賞与) 1,320 (貸) 法定福利費(仮) 1,320

実際の支給額を計上します。

(借) 賞与 15,000 (貸) 未払金 15,000
(借) 法定福利費(賞与) 1,650 (貸) 未払費用(賞与) 1,650

一人別のワークシート

実際支給額のため、給料ソフト等からもデータを取ることができます。

賞与は労働保険料の場合も社会保険料にも課されるため、これらに係る法定福利費を計算します。

そして、この賞与の額と賞与に係る法定福利費の額を、再び1/6にして賞与支給対象期間の各月に配分します。

これによって、各月の一人別の労務費原価計算は、給料等の額と賞与を月々に配分した額との合計額によって行われることになります。

原価計算と各勘定科目へ振替

従業員別に、各月の給料等と各月に配分された賞与額との合計額を、各作業内容によって配賦します。

一人別の労務費を集計したものが、各作業内容の労務費コストということになります。

各作業内容別の労務費コストに、各作業内容に直接関連するコストを加算し、さらに、基礎資料でのデータ(作業時間等)などによって間接費を配賦・加算して、最終的な原価が算定、集計されます。

さて、会計基準のモデル例では、ソフトウェア原価計算の対象となるコストは、一義的には一般管理費ではなく製造費用とされています。

製造費用は製造原価報告書を通じて売上原価の要素として売上総利益が算定され、一般管理費は販売費及び一般管理費の要素として営業損益が算定されます。

製造原価報告書のひな型は次のとおりです。

  • 材料費(1)
  • 労務費(給料、賞与、法定福利費など)(2)
  • 経費(3)
  • 他勘定からの振替高(4)
  • 当期総製造費用(5)=(1)+(2)+(3)+(4)
  • 期首仕掛品棚卸高(6)
  • 期末仕掛品棚卸高(7)
  • 他勘定への振替高(8)
  • 当期製品製造原価(9)=(5)+(6)−(7)−(8)

研究開発費の振替

研究開発費を原価性がないものとして期間費用として処理する場合には、製造費用から一般管理費に振り替えます。

(借) 研究開発費 XXXX (貸) 給料
賞与
法定福利費
etc
XXX
XX
X
X

ただし、給料勘定などから振替額がマイナス(貸方)処理されるのが、総額主義的な点から好ましくないと考えられる場合には、次の仕訳が考えられます。

(借) 研究開発費 XXXX (貸) 他勘定への振替高 XXX

制作コストの振替

製品マスター完成時点からのコストや、著しくない機能の改良を開始した時点からのコストは、制作途中となるため、ソフトウェア仮勘定に振り替えます。

(借) ソフトウェア仮勘定 XXXXXXX (貸) 給料
賞与
法定福利費
etc
XXX
XX
X
X

または

(借) ソフトウェア仮勘定 XXXX (貸) 他勘定への振替高 XXXX

なお、「ソフトウェア仮勘定」を通さずにそのまま一挙に「ソフトウェア」とい考え方もありますが、いったんソフトウェア仮勘定で受けたほうがよいように思われます。

制作が完了した場合

(借) ソフトウェア XXX (貸) ソフトウェア仮勘定 XXX

減価償却費の計上

(借) 減価償却費 XX (貸) ソフトウェア XX

( つづく )