( 5 )単純モデルによる設例

モデルを単純なものにして、従業員別にコストを集計するソフトウェア原価計算についてコメントいたします。

従業員別に原価計算をする理由は、従業員別のコストを積み上げてこそより正確な原価が算定できるためであり、また、間接費の配賦についてもより精度の高い数値を基準にすることが可能だからです。

たとえ従業員別までやらなくても、実際に支給した賞与額を支給対象期間にわたって配分する作業は絶対に必要です。

単純モデルの仮定

  • 12月決算とします。
  • 原価計算は年1回決算時にのみ行います。
  • 給料の締め日は月末締めとします。
  • 月次決算の締めまでに給料額が確定しているものとします。
  • 賞与の支給日は6月30日と12月31日(便宜上)とします。
  • 賞与の支給対象期間は1月1日から6月30日と7月1日から12月31日とします。
  • 退職金規定はないものとします。

これらの仮定の意図することは、「概算額の計上(とのその洗い替え処理)を可能な限り減らす」という点です。

12月決算としたのは、一般的な賞与の支給時期を整合性をつけるためです。支給対象期間をきっちり12月31日までとし、しかも同日に賞与が支給されることにしています。よって、たとえば賞与支給対象期間が6月1日から11月30日で12月某日が賞与支給だとすると、12月1日から12月31日までに潜在的に発生する賞与の概算額を計上すべきですが、その必要はありません。さらに、この賞与概算額に係る法定福利費の概算額も計上する必要がありません。

給料の締め日を月末締めにしたのは、もし20日締めにすると、21日から月末日までの給料概算額(あるいは金額は正確でも確定していない額)を計上すべきですが、その必要はありません。さらに、この給料概算額に係る法定福利費の概算額も計上する必要がありません。

給料の締め日を月末締めにしていること、そして、賞与支給対象期間も月末日(6月30日または12月31日)としていることで、労働時間を月初日から月末日まで把握すれば、時間と発生金額に整合性があることになります。

退職金規定がないため、退職給付費用を計上する必要がありません。

原価計算は決算時にのみ行うことから、月次レベルあるいは四半期レベルで暫定計算(会計上月次で賞与概算額を計上しなくてもこれを織り込んで計算すること)をする必要がありません。

(Step1)各月の従業員別給料発生額の把握

これからの作業の目的は、従業員別の給料発生額(勘定科目で給料a/c )を整理し、会計処理に影響を与える従業員別の作業時間とドッキングさせるための基礎データを作ることにあります。

管理会計的にも重要ですが、少なくとも会計処理のための原価計算なので、仕訳の基礎資料とするために勘定科目別に分けるのです。チェックされても「ほら、これが金額の内訳です」とサラッと示すためです。サラッと示せるシートは間違いの発見や修正も容易です。

なお、このモデルでは、給料の締め日は月末であり、しかも、月次決算までに支給額が確定しているために、概算計上をする必要がありません。もし、締め日が月末でない場合や、月次決算までに支給額が相当程度固まらない場合には、給料を概算計上せざるをえません。この場合には、「前月の概算計上の戻し」「当月の給料額」「当月の概算計上額」という従業員1人につき3行が必要ということになります。

(Step2)各月の給料に係る従業員別法定福利費の把握

従業員別の人件費を把握するためには、給料や賞与だけではありません。法定福利費も考慮しなければなりません。

もっとも、法定福利費を従業員別に把握して原価計算をしてみても、その前提となる法定福利費の計上それ自体が会計上キチンとされていなければ、結果として損益がおかしなことになってしまいます。

従業員ごとに行を設けるべき項目はおおむね次の項目です。

  • 健康保険料会社負担額
  • 介護保険料会社負担額
  • 厚生年金保険料会社負担額
  • 児童手当拠出金
  • 厚生年金基金掛金会社負担額(標準掛金、加算掛金、事務費掛金など)
  • 労災保険料
  • 雇用保険料会社負担額
  • 一般拠出金

社会保険料

社会保険料は、従業員負担分と会社負担分から構成されるものや、会社負担分のみのものもあります。そして、会社負担分が法定福利費として会社の費用になります。

社会保険料には厄介な問題があります。当月の発生額について納入告知書が届くのは翌月の後半であることから、確定額を待っていられません。しかも、納入告知書は納入する総額のみが記載されていることになります。

そこで、社会保険料を自前で算定することになります。

社会保険料の額は、個々の従業員の給料等を基礎とした標準報酬月額を基礎としています。

この標準報酬月額は、個々の従業員の給料等を基礎としているものの、いわゆる随時改定となる増減がないならは変更はありません。しかも、随時改定の要件を満たしても実際に標準報酬月額が変更されるタイミングはズレがあります(増減後4ヶ月目から)。このため、随時改定となるような給料等の増加や減少があっても、3ヶ月間は低い標準報酬月額が適用されます。

これに加えて、社会保険料の「発生月」と、従業員等からの徴収月がズレている場合には注意する必要があります。月遅れの徴収をしている場合には、社会保険料の発生月と会計上の計上月がズレることになります。これでは、せっかく細々と法定福利費を計算しようとしているのにムダになりかねません。

そこで、現在から将来の社会保険料の発生額を算定する前に、いったん過去の実績からシミュレーションをしてみることをオススメします。定時改定の時を出発点に、社員の増減、随時改定が生じる給料等の増減、賞与の発生、育児休暇等の場合などの月でチャレンジしてみます。

通勤交通費を加えるのを忘れないでください。これを忘れて悩みまくることがあります。

自前での計算が、過去の実績とピタリと合っていれば、自信をもって社会保険料の見積り計算をすることができます。

余談ですが、実はこの過程で、従業員の徴収が過大だったり不足だったりすることが判明することがあります(特に料率変更時)。すでに年末徴収もしていたり、従業員が退職していたりなどです。

なお、給料の締め切りが月末でない場合であっても、標準報酬月額で算定される法定福利費については特段の考慮をする必要はないと思われます。

労働保険料

さて、労働保険料(労災保険料や雇用保険料や一般拠出金)については、標準報酬月額ではなく、実際の給料等によって算定することになります。

労働保険料についても、確定ベースで金額を判断するため、概算計上分については特段の考慮をする必要はないと思われます(ただし、賞与見積額の月々への概算計上額は除きます。下記参照)。

(Step3)従業員別の賞与額とこれに係る法定福利費の把握と各月への配賦

この単純モデルによれば、賞与の支給日は6月30日と12月31日(便宜上)で、賞与の支給対象期間は1月1日から6月30日と7月1日から12月31日となっています。

まずは、各人従業員の賞与額に係る法定福利費を算定します。項目は上記と変わりません。

つぎに、賞与額と法定福利費を、賞与支給対象期間に配賦します。つまり、12月に60の賞与があれば、7月から12月に10ずつ割り付けるのです。

この作業は、どんなにルーズな原価計算であっても必ず行わなければなりません。なぜなら、この作業を怠ると、同じ作業なのに賞与発生月(期間)の原価がほかの月(期間)の原価よりも高くなってしまうからです。

賞与支給時期と決算月との関係では、月々の給料に賞与見積額を加えたところで原価計算を行う必要があります。会計上は月次計上はしていなかったとしたら、期末に追加的に計上すべきです。

また、このモデルでは賞与支給対象期間もきっちり月初から月末までとなっていますが、もしこの期間がズレている場合には、この部分をどう調整するかが問題となります。なんらかの基準で概算額を入れたりすることになると思われます。

いずれにしても、これは確定した賞与の各月への配分ではなく、見積概算額の計上であるため、確定賞与とは別の行を設けてコントロールすべきです。そして、確定賞与が発生した段階で一挙に組み替えるようにするのです。もちろん、この見積概算額に係る法定福利費の概算分も当然別の行を加えてコントロールすることになります。

(参考)各月の従業員別退職給付費用の把握

ここでのモデルでは、退職金規定がないとしているために、退職給付費用は把握することはありません。

もし、退職給付費用の計上が必要であり、たとえば期末における自己都合要支給額を基にして各従業員別に退職給付費用を算定することが比較的容易であれば、やはり各月にわたって集計すべきです。

中小企業退職金共済制度などに加入しており、各従業員別の掛金が定まっている場合にも同様です。

( つづく )