決算作業中の最終利益のシミュレーション法

「当期はこれだけの当期純利益でした」「納める税金はこれだけになります」で終わってしまうだけの「なりゆきの決算」が間違っているとは申しません。

いっぽうで、「最終利益はこのくらいにしたい」「最終赤字は避けたい」などの「より経営意思が反映された決算」をしたい場合、法人税を正確に計算をしたうえで最終利益(当期純利益)をシミュレーションしたいという考え方も間違っていないはずです。

私の場合、最終的に損益計算書で法人等で表示されるものも期中は未払法人税等のマイナス(借方)として処理し、法人税等a/cの残高はゼロにし、法人税等の額は決算時に仕訳1本で計上するようにして、当期純利益の細かい調整を可能にしています。

法人税等の額のインパクト

貸借対照表の負債の部の未払法人税等の残高は、法人税や事業税などの確定申告での納付額と一致させるのがより正確です。

その会計処理で、「未払法人税等」(貸方)の相手科目は「法人税、住民税及び事業税(以下「法人税等」といいます。)」です。

(借) 法人税等 XXX (貸) 未払法人税等 XXX

売上高から始まる損益計算書の一番最後の部分だけに、そのインパクトは大きいものがあります。

時間的に余裕がなく、仮受消費税等a/cと仮払消費税等a/cを相殺した残額をとりあえず未払消費税等とした場合とはわけがちがいます。たしかに、未払消費税等の額と消費税の申告での申告納付額も一致させれば理想ですが、よほど期中の処理が間違っていない場合を除けば、この差額の損益に与えるインパクトは、法人税等の額に比べたら重要性は相対的に低いと考えられます。

もちろん、貸借対照表の未払法人税等の残高と、各申告による申告納税額とを必ず一致させなければならないという規定はありません。しかし、実際の申告納税額と差額が出ている場合、結果として前期末に法人税等の過大計上による当期純利益の過少表示、あるいは、法人税等の過少計上による当期純利益の過大表示となります。

法人税額の計算とその計上

損益計算書の法人税等の計上と、これに伴う法人税申告書上の処理についてはいろいろな方法があります。

私の場合は、次の金額を一致させるようにしています。

  • 損益計算書の「法人税、住民税及び事業税の額」の額
  • 法人税申告書別表四「所得の金額の計算関する明細書」の「損金経理した納税充当金(5欄)」
  • 同別表五(二)「租税公課の納付状況等に関する明細書」の「損金経理した納税充当金(32欄)」

このためには、法人税ソフトで法人税その他の申告納税額を計算し、別表五(二)の「期末納税充当金」の額がその申告納税額と一致するように、仕訳1本で法人税等の額を計上します。

(借) 法人税等 XXX (貸) 未払法人税等 XXX

仕訳1本で法人税その他の申告納付額を法人税等として一挙に計上するため、税引前当期純利益と(税引後)当期純利益との関係がつかみやすくなります。

これにより、税引前当期純利益を変化させると法人税等の額および(税引後)当期純利益の額がどれだけ変化するのかのシミュレーションが容易にできるため、細かい決算調整が可能となります。

期中での帳簿上の処理(会計ソフト上の処理)

では、損益計算書の法人税等の額を1本の仕訳で行うためには、期中(または法人税額の計上の寸前)においてどのような処理が必要でしょうか。

法人税等a/cは使いません。つまり、法人税等a/cはゼロにします。月次決算等で使っていたとしても、その仕訳を取り消して残高をゼロにします。

よって、税引前当期純利益=(税引後)当期純利益となります。

最終的に損益計算書で「法人税等」として表示すべきものは、法人税等a/cではなく未払法人税等a/cのマイナス(借方)で処理します。

(借) 未払法人税等 XXX (貸) 現預金 XXX
(借) 預金 XX (貸) 受取利息 XXX
未払法人税等 X

期中に未払法人税等a/cのマイナス(借方)で処理するものとして次のものがあります。

  • 前期に係る法人税、事業税、道府県民税(都民税)や市町村民税の申告による納付額
  • 当期の予定申告または中間申告に係る納付額
  • 修正申告、更正、決定による納付額
  • 申告期限延長に係る利子税や延滞金
  • 受取利息や受取配当金について源泉徴収された所得税や復興特別所得税の額

これらの処理によって、決算前における未払法人税等の残高は赤残(マイナス)となっていることになります。

法人税申告書(法人税申告ソフト上の処理)

期中において法人税等a/cを使わず未払法人税等a/cの借方で処理した場合には、法人税の申告書(法人税ソフト)上ではどうなるでしょうか。

なお、会計上でいう「未払法人税等」は、法人税の申告書上では「納税充当金」となります。

前期末の未納額の処理

法人税申告書別表五(二)「租税公課の納付状況等に関する明細書」の「当期中の納付税額」には、「充当金取崩しによる納付」「仮払経理による納付」「損金経理による納付」があります。このうち「充当金取崩しによる納付」で処理します。

前期に係る法人税、復興特別所得税、地方法人税、道府県民税及び市町村民税の申告書での申告納税額は、別表五(二)では「期首現在未納税額」となっています。これを納付して「充当金取崩しによる納付」に入力(記載)すれば「期末現在未納税額」はゼロとなります。

事業税と地方法人特別税(酒税や事業所税なども同様)の額は、法人税その他と異なり損金に算入されますが、損金算入のタイミングは納税申告書を提出した事業年度つまり翌期となります。この関係で、前期に係る事業税、地方法人特別税の申告書での申告納税額については、別表五(二)では「期首現在未納税額」ではなく「当期発生税額」となります。 これを納付して「充当金取崩しによる納付」に入力(記載)すれば「期末現在未納税額」はゼロとなります。

中間申告による納付額

法人税などの中間申告による納付額は、別表五(二)では「当期発生税額」となります。納付では「充当金取崩しによる納付」に入力(記載)します。

預金利息や配当に係る源泉徴収税額

預金利息や配当に係る源泉徴収税額についても、別表五(二)では「当期発生税額」となります。納付では「充当金取崩しによる納付」に入力(記載)します。

なお、源泉徴収された税額は、別表六(一)にも記載します。

納税充当金の計算

さて、別表五(二)の下のほうは、「納税充当金の計算」となっています。これはものすごく重要です。

「期首納税充当金」の残高が貸借対照表の未払法人税等の残高と一致していることは基本中の基本です。これは期中においても同じです。

そして、期中において納付した額はすべて未払法人税等のマイナスとして会計処理しているため、「納税充当金の計算」では「取崩額」に記載されます。期末納税充当金はマイナスになっているはずです。

決算での処理

決算においては、決算整理仕訳を計上・入力することで会計上の数値を整えると同時に、税金の計算をすることになります。

これらは同時進行で行うのが理想ですが、順序をつけるとしたら、消費税が関係する決算整理仕訳を行って消費税の申告納税額を計算し、ついで事業税(とくに外形標準課税の付加価値割)の算定のための情報(給料報酬や利子や賃借料など)を入力します。

消費税額の計算

法人税の額の算定の前に消費税の申告計算を行うのは、仮受消費税等a/cと仮払消費税等a/cを相殺した残高と、実際の消費税の申告額とは必ず異なります。 この差額は、税額の計算上の端数処理に由来する場合は少額ですが、課税売上割合が低く仕入れ税額控除が全額できない場合にはその差額が大きくなります。 決算早期化の関係で、消費税の申告納税額の計算ができず仮払消費税等a/cと仮受消費税等a/cを相殺し未払消費税等a/cにまとめただけで、申告額との差額を雑収入や雑損失として処理できなくても、法人税の申告ではこの差額は損金または益金として反映させなければなりません。当然これは税効果の対象となります(いわゆる一時差異)。

申告調整事項の反映と税効果会計の仕訳計上

そして、消費税の申告を固めたところで、消費税を関係ない決算整理仕訳を入れつつ、法人税申告ソフトにいわゆる申告調整事項(交際費や寄付金や償却費など)についてもどんどん入力(記載)していきます。 この申告調整事項のうち、税効果会計の対象となる項目(一時差異)の増減を別表(四)と別表五(一)に反映させます。

この申告調整事項から、税効果会計の対象となる項目(一時差異)の増減額について税効果会計の仕訳を計算して、会計ソフトで計上します。

(借) 法人税等 XXX (貸) 繰延税金資産 XXX
(借) 繰延税金資産 XXX (貸) 法人税等 XXX

そして、会計ソフトで計上した税効果会計の仕訳の額を、今度はブーメラン的に別表四と別表五(一)に入力します。

法人税額の計算と最終利益の確定・計上

申告調整と税効果会計の帳簿入力の後の段階で次のような数値になっているとします。

(帳簿)

貸借対照表

未払法人税等 ▲ 200

損益計算書

税引前当期純利益 800
法人税等 0
法人税等調整額 ▲ 50
当期純利益 850

(法人税申告書)

別表四

当期利益の額 850
損金経理した納税充当金 0

別表五(二)

損金経理した納税充当金 0
期末納税充当金 ▲ 200

まず、損益計算書の当期純利益の額と別表四の当期利益の額が一致していること、貸借対照表の未払法人税等a/cの残高と別表五(二)の納税充当金の期末残高が一致していることを確認します。

一致していないと先に進みません。会計サイドでの仕訳の計上か、法人税ソフトでの入力か、いずれかあるいは双方に問題があります。

この段階で、計算した申告納税額(法人税、地方法人税、事業税、特別地方法人税、法人道府県民税(法人都民税)、法人市町村民税)の総額が150だとします。

このことは、期末の貸借対照表の未払法人税等の残高は150だということを意味しています。

会計上の未払法人税等の残高と別表五(二)の期末納税充当金の額が▲200になっているので、これを150にするためには、350を計上する必要があります。 まさにこの350が損益計算書の法人税等となり、かつ、別表四の「損金経理をした納税充当金(5欄)」となります。

(借) 法人税等 350 (貸) 未払法人税等 350

この結果、最終的な数値は次のとおりとなります。

(帳簿)

貸借対照表

未払法人税等 150

損益計算書

税引前当期純利益 800
法人税等 350
法人税等調整額 ▲ 50
当期純利益 500

(法人税申告書)

別表四

当期利益の額 500
損金経理した納税充当金 350

別表五(二)

損金経理した納税充当金 350
期末納税充当金 150

ここで重要なのは、会計上で法人税等と未払法人税等を計上し、法人税ソフト上で納税充当金の入力を行った後で、あらためて次の事項をチェックします。

  • 会計上の(税引後)当期純利益と別表四「当期利益の額(1欄)」が一致していること
  • 会計上の法人税等と別表五(二)「損金経理をした納税充当金(32欄)」が一致していること
  • 会計上の未払法人税等と別表五(二)「期末納税充当金(42欄)」が一致していること
  • 会計上の繰越利益剰余金と別表五(一)「繰越損益金(26欄)」の差引翌期首現在利益積立金額が一致していること

基本的には一致するはずなのですが、焦っていると数字の入力ミスがあり、違ってしまっていることがあります。

最終利益のシミュレーション

最終的な法人税額を確定する以前に、すでにその他の部分の作業(消費税や事業税外形標準課税の一部などの算定など)を終了させ、いっぽうで、最終的に損益計算書で「法人税等」として表示される部分については、期中は法人税等a/cではなくすべて未払法人税等a/cのマイナスとして処理しています。

このため、最終的な法人税等の額の計上は、未払法人税等a/cの額を申告納付額に合わせるように仕訳を1本入れればよいことになります。これによって、中間納付の額や源泉徴収された所得税等も結果的に法人税等として表示されることになります。

もし、当期純利益の数値がイメージどおりにならないときは税引前当期純利益よりも上の項目で調整することになります。 このとき、税効果の調整が必要な場合にはこれも反映させることになります。そして、あらためて税額を計算して、当期純利益がイメージどおりになるように試行錯誤を繰り返します。

(余談)

事業税の申告納税額と未払法人税等

法人税(および地方法人税)、住民税(道府県民税と市町村民税)の申告納税額は未払法人税等に計上しても、法人事業税や地方法人特別税の申告納付額については計上しない決算をしている場合があります。その理由は、事業税や地方法人特別税は法人税などと異なり法人税の額の計算上損金の額に算入されますが、その損金算入時期は、申告書を提出した事業年度すなわち翌期となるためと思われます。このようなガチンコ税務会計の是非についてはあえて触れません。

損金経理をした納税充当金の中に含まれる事業税等

損金経理をした納税充当金、すなわち、法人税等として1本で仕訳した額は損金の額に算入されません。このため別表四で加算されます(5欄)。

ところで、この損金経理をした納税充当金の中には、損金の額に算入される事業税の額も含まれています。少なくとも、中間申告による納税額は損金の額に算入されます。

そうしますと「損金の額に算入されるべき事業税が納税充当金の繰り入れとして処理されたために加算(損金不算入)となっていておかしい」という疑問も生じます。

しかし、先ほども述べましたとおり、前期末の事業税等の申告納税額(前期末の未納付額)と当期の事業税の中間申告額については当期の損金となりますが、別表五(二)でも当期発生額となります。そして、その納付を「(納税)充当金取崩しによる納付」とすれば、別表四において「納税充当金から支出した事業税等の金額(13欄)」として減算(損金算入)となります。

このため、当期純利益から加算されるのは、結果として損金算入されない法人税や住民税となります。

事業税の資本割と付加価値割の損益計算書上の表示

事業税のうち、資本割と付加価値割については、販売費及び一般管理費として表示するとになっているため、この場合には、損益計算書上の法人税等と法人税申告書別表四の損金の額に算入した納税充当金とに差額が生じます。しかし、これは仕訳を入れるというよりも、公表用の財務諸表の表示の組み替えで対応できると考えられます。

税務当局サイドでチェックのしやすい税務署用の決算書を提出するのも一法といえます。税務当局としては損益区分の妥当性(少なくとも「販売費及び一般管理費か営業外費用か特別損失か」など)はあまり重要ではなく、それぞれの数値がキチンと一致しているかどうかチェックされやすいほうがよいと思われます。しかもチェックする相手もまたヒトであり、わざわざ自分に不利な先入観を与えてしまうのは得策ではないと思われます。この点で、税務申告書はただ税金の計算ではなく、当局に対するプレゼンテーションなのです。

税込経理方式の場合の消費税等の申告納税額

事業税の申告納税額とその損金算入時期の問題は、消費税の経理を税込経理方式で行っている場合にも妥当します。

税込経理方式による消費税の申告納付額の損金算入時期も、事業税などと同様に申告書提出の日の属する事業年度(つまり翌期)となりますが、もし、会計上で翌期にこの納付額を計上すると、消費税分だけブクブク膨らんだ収益費用も含めて法人税の課税所得を構成するいっぽう、このブクブクの分の消費税(期間費用)の決済(申告納税額の計上)は翌期となるという、期間損益計算の点からすると極めて違和感のある内容となります。

より踏み込めば、そのような処理をしている場合、月次決算をやっているとしたらその月次決算はマトモなのか?それを前提に経営上の意思決定をしていたとしたらそれは果たして適切なのか?ということになります。

なお、法人が申告期限未到来の納税申告書に記載すべき消費税等の額を損金経理により未払金に計上した場合または収益の額として未収入金に計上した場合には、その計上した事業年度の損金の額または益金の額に算入することができるため、期間損益計算としては一応保たれることになります。

(おわり)