資格もいいけど会計ソフトで実務を身につけましょう

実務に役立つスキルを身につけるのであれば、簿記検定で何万円もかけるよりも、会計ソフトを買って学ぶほうがはるかにためになります。

実際に仕訳を入れるとどうなるのか、複式簿記によって損益計算書(フロー)と貸借対照表(ストック)がどう変わるのか、そのダイナミズムを会得すべきです。

事業計画を作成するにしても、複式簿記的な理解が深まれば、より精度の高いものを作ることができます。

なぜ資格を取るんですか?

簿記検定○級と履歴書に書くことで就活を有利に進めようというのであれば、お勉強して資格を取得すればよいと思います。

たしかに、巷にあふれるサイト等でも、簿記検定は就職に有利と書かれてありますし、仕訳や帳簿組織についての一定の知識は、経理の実務にはある程度役に立ちます。

いわゆる資格を取得すればそれで満足という資格マニア系の方ならともかく、ある程度時間とエネルギーをかけて取得した資格なのだからそれを活かしたいと考える方のほうがどちらかといえば多いのではないかと思われます。

ただ、現実の経理の実務は、試験のお勉強の知識だけではなかなか難しいことが少なくありません。

お勉強の知識と実務とのギャップ

なぜせっかくお勉強したのにあまり役に立たないと感じるのでしょうか。

消費税の知識

お勉強と実務で最も異なるのが消費税の知識とその処理です。難関とされる会計士の試験ですら消費税は出てきません。しかし、日常の経理実務では消費税の処理が極めて重要です。

なぜなら、消費税の申告は、会計ソフト(会計システム)で集計された消費税情報を基礎に行うため、日々の仕訳が重要になるからです。

このため、消費税取引の集計を正確にするために、入力する仕訳も試験問題の解答の仕訳とは異なる仕訳を行ったりします。典型的なのが固定資産の売却の仕訳です。

また、修正仕訳も消費税の申告を意識した消費税の修正仕訳が重要になります。つまり、科目も金額も間違えていないのに、消費税取引コードや税率が間違えていたための修正仕訳を行うことになります。

全体像が見えない

比較的規模が大きい会社となると、ひたすら経費精算の会計処理を任されたり、売上計上の会計処理を任されたり、売掛金回収の会計処理を任されたりなど、一部の業務を任されるところから出発します。

ところが、規模の比較的大きな会社では、売掛金とその回収(債権管理システム)、買掛金・未払金と支払のシステム(未払管理システム)、固定資産管理システムなどの各システムから仕訳を入れる仕組みになっていると、帳簿の全体像がなかなかつかみにくいものです。

イタいパターン

「とりあえず資格」ということで、ついつい学が先行していると、「ナめられまい」と挨拶代わりの自己PRもあいまって「本来ならばこういう会計処理をすべきだ」とかやってしまいがちです。

少なくとも期中の会計処理で教科書的な方法とは異なる処理をしているのは、チェックの容易さ、担当者のレベルなどそれぞれの会社で過去の経緯からそのようになっていることが少なくありません。とはいえ、最終的な決算で適切な勘定科目に変更したり、あるいは、帳簿上の勘定科目の残高はそのままでも公表用の数値では適切な名称にしているものです。

ところが、全体を把握することなくいきなりダメ出しから始めたあげく適応能力がイマイチだと「なんなんだこの人は」と評価されてしまい、非常に仕事がやりずらくなります。この信頼を取り戻すのは容易ではありません。

なぜ会計ソフトを購入すべきなのか

資格よりもお仕事のスキルを身につけたいのであれば、専門学校やセミナーに大枚を払うのは遠回りです。そのおカネで弥生会計のような会計ソフトを購入すべきです。

なぜ会計ソフトを購入すべきなのでしょうか。

結局経理のお仕事は、仕訳を会計ソフト(会計システム)に入力できることが出発点だからです。

知識が先行していちいち理屈っぽい人よりも、お勉強の知識はあまりなくても、前任者のやっていることをマネてひたすら仕訳を入力してくれるほうが重宝されます。つまり、簿記の知識というよりは、むしろ職場での適応力とか順応力が大事ということになります。

スキルを身につけたいのであれば、会計ソフトを購入していろいろ操作してみるべきです。

実際に仕訳を入れるとどうなるのか、貸借対照表と損益計算書がどう変わるのか、そのダイナミズムを会得すべきです。

事業計画を作成するにしても、複式簿記的な理解が深まれば、損益(フロー)と資産負債(ストック)の関係のなかで精度の高いものを作ることができます。損益しか考えていないと資金繰り(資金調達)のタイミングがよくわからないですし、資産負債(イージーな現金収支)しか考えていないと単年度的な発想しか出てこなくなってしまいます。

必ず残高試算表から出発するクセをつけましょう

簿記検定や税理士試験などの問題の典型は、決算整理前残高試算表が出てきて、これに決算整理や期中取引の修正を行って決算整理を行うことが中心です。これらの中に個別論点がちりばめられています。

おなじみのスタイルから入ることでお勉強を実務を融合させていきましょう。

会計ソフトでは、ある勘定科目をクリックすればその科目の総勘定元帳が開きます。

会計ソフトによっては、昔ながら(?)のファンクションキーと数字によって、仕訳辞書や摘要辞書などを使いながら入力するかもしれませんが、弥生会計の場合は、あまりファンクションキーを使うのではなく、クリックによってどんどん帳簿をブレイクダウンすることができます。

また、弥生会計の場合は、「補助科目を表示」とすれば、残高試算表の任意の勘定科目にカーソルを当てれば下段に補助科目が表示されます。 ある補助科目をクリックすれば補助元帳が開きます。

最初は「消費税免税」の事業所を新規作成して練習してもよいかもしれませんが、慣れてきたら消費税課税事業者の事業所を新規作成して練習しましょう。

実務では知識は資格試験とはちがってカンニングし放題です。わからないことはその都度容易にネットから得ることができます(とはいえ、何の知識を求めているのか的確に捉えるためにはある程度の知識がなければなりませんが・・・)。

最初は嫌でも消費税を意識した仕訳をせざるを得なくなります。

複式簿記による仕訳によって、会社の財産の状況や損益をダイナミックに変わっていくことを体得しましょう。

さらなるスキルアップを

そうすると、仕訳がちゃんとできるのなんて当たり前で、いかに検証可能性の高い勘定科目・補助科目・部門の体系を創り出せるかが重要だということに気付くはずです。

次に、単純に期間損益計算(とか正しい税金の計算)ができればよいというだけではなく、決算書は外部(金融機関や国税当局や親会社や投資家など)へのプレゼンテーションだと捉え、どう見せるかを常に意識することが大切だとわかります。

さらに、会計基準や税法といったルールで作られた情報から、それにとらわれない情報(経営管理や人事考課といった管理会計的な情報)を取り出して利用できるか、そのためにはまたどのような科目設定や部門設定が必要か検討できることが重要です。

まとめ

知識だけあっても、結局は「お仕事できてナンボ」です。

たとえ補助者や部下に任せていても、やろうと思えば自分でできるかどうかが重要です。

決算書の分析をして「ナントカ比率がどうだ」「リスクがある」とかコメントするだけで、「ここで今具体的に特定してよ」と追い込まれるととたんに自信満々な態度がみるみる変わっていく方もいます。

試験では「問題に対して解答する」ことだけで済みますが、実務ではむしろ「何が問題点なのかを発見し、それを調べて正しい解決策を見つけ、他人にわかりやすく説明・説得し実践する(させる)」ことが求められます。

前任者のやっていることをマネしているだけとか、わからないことを調べようともせず他人任せで自分は何もしないとか、「(資格あるのに)こんなこともわからないのかとバカにされたくない」と小さく仕事をしていると時の経過だけのキャリアとなってしまいます。

そういう方にかぎって「経験が大切だ」とかおっしゃるものですが・・・。

(おわり)