経理がわかれば必ずしも経営がわかるわけではないわけ

簿記のお勉強や経理の実務は、基本的に過去の情報について会計ルールに基づいて損益計算を行うことが中心です。

ところが経営の本質は「支払日(返済日)におカネがある」「そのためのおカネを調達できる」資金繰りであり、経営上の関心も年度を超えたものも少なくありません。これには「会計や税務の理論やルールに縛られた」「過去の」「最長1年間の」情報では限界があり、また会計理論で経営を説くのもやはり限界があります。

制度会計による実務がキチンとできるだけで満足してしまうか、それとも、制度会計というか財務会計の枠で云々しているだけでなく、いったんその枠は取っ払って、経理データから経営に有用な情報をいかに抽出・加工できるかどうかが問われていると思われます。

枠の中でのお話

経理あるいは総務のお仕事は多岐にわたります。顧客への請求や支払い、給料計算などさまざまです。

会計や税務のお仕事の中心は、「会計基準や税法のルールに従って会計処理を行って、決算書を作成する」「法人税や消費税など納めるべき税金を計算する」ことです。

なるほど、たしかに適切な会計処理をしたりマトモな決算書を作ったり、正確な税額を算定することには一定の知識やスキルが求められます。

しかし、誤解を恐れずに言えば、一定の知識やスキルが求められるがゆえに「決算をしました」「税額を出しました」で終わってしまう人は少なくないように思われます。

たしかに、適切な会計処理をしたり、マトモな決算書を作ったり、正確な税額を算定することに追われているせいか、とてもそれを超えるところまでは余裕がないのかもしれませんし、給料や報酬に繋がらないからと切り捨てているのかもしれません。

税金の計算は正しいのかもしれないけれど

しかも、その前提となる「ルールに従って作られている情報」なのかどうかすらアヤしいこともしばしばあります。

業務上、いろいろな企業や同業の専門家(会計事務所)が作成した帳簿をガッツリ調査することが多いのですが、それぞれいろいろな処理をされています。

たしかに、法人税の計算や消費税の計算は正しいのかもしれません。

ところが、相当程度の規模の会社でさえ、会計上の損益計算、というよりも税務上の損金・益金計算が最優先されていて、ナントカ比率の前提となっている「貸借対照表の流動・固定区分」とか「損益計算書の表示区分」は正直テキトーになっていることが少なくありません。

「貸借対照表の流動・固定区分」「損益計算書の表示区分」がテキトーかどうかは、パッと見でわかるものが少なくないのですが、税金の計算以外まで配慮する余裕がないのかナゾですが、あれれというものが少なくありません。

さらに驚くのは、そのままナントカ比率を算定して、あれこれ財務分析をしたり、何かのプレゼンに使ってしまう金融機関やM&A仲介会社等がしばしば存在していることです。

経営の本質

たしかに、マトモな決算書を作ったり、正確な税額を算定することは重要です。

一方で、経営の本質は、つまるところキャッシュが回せるかどうかということです。

要は次の2つになります。

  • 支払日(返済日)におカネがある
  • おカネがないときに調達できる

つまりは資金繰りです。

この2つが満たされていれば、どんなに赤字であろうが事業は継続できるのです。

極端な話、まったくもうかっていない、売上がゼロでたんなるおカネの垂れ流しあっても、おカネさえ調達できればよいのです。おカネを調達できれば支払いはできるため倒産することはありません。

ただ困ったことに、おカネに色は付いていないため、もうかっておカネなのか借りたおカネなのかは区別できません。

すると「おカネさえ借りられればそれでよし」という心理状態になってしまい、経営の実態を直視せず、ただただ資金調達だけを考える経営者も少なくありません。

おカネを貸す側は、もうかっていないところにはなかなか貸しません。これが、もうかっているように見せる粉飾決算の動機付けとなります。

経営上の関心と制度会計の限界

経営上の関心の根本は、「この品物やサービスはいくらで売ればいいのか」その前提として「この品物やサービスを提供するのにいくらかかる(かかった)のか」、そして「どのくらいもうかったのか(損失だったのか)」です。

そして、短期的には「あそこへの支払はいつになるのか」「ところであの仕事はいつ終了するのか」「いつ請求できるのか」「いつ入金するのか」「あの仕事の入金はちゃんとされているのか」「いつまでにいくらおカネを調達しなければならないのか」です。

中長期的には「多額のおカネを借りて、数年にわたって相当な先行投資や研究開発をしたビジネスについて投資額を回収できたのか」です。

ところが残念なことに、どんなに正確な会計処理をしても、決算書がどんなに正確なものだっとしても、これらに応えられることはできません。

なぜなら、それはあくまでも「会計や税務のルールに縛られた」「過去の」「最長1年間の」情報だからです。

ところが経営センスのある経営者は、まったく会計理論のことがわからなくても、経営上の関心事について直感的にあるいは経験的にわかっています。

経営者が経理部門とか会計事務所から損益計算書などを見せられ丁寧に説明をされたところで何となくストンといかないのは、経理に関わる人たちがどんなに素晴らしい処理をしたとしても、「ああ経理上のルールではそうなのね」「税金の計算ではそうなのね」ということであり、何より過去の話なのです。

限界突破

簿記検定やその他の会計関係のお勉強も、いろいろな理論も学びますが、けっきょく実務となると、仕訳をバンバン入れられるかどうか、月次や四半期や年次の決算をできるかどうかとなります。

いわゆるひとつの制度会計というもので、ルールに従った会計情報が作れますかということであり、ある意味、それに尽きるということになります。

このため、財務諸表や計算書類を作成することそのもので自己満足あるいは自己完結してしまい、経営的にどうかということにはあまり関心がないという方も少なくありません。

一方で、会計がデキる、あるいは、デキると思っている人は、ついつい会計理論の発想から考えがちですが、それは経営からするとひとつの断面にすぎません。

しょせん過去の情報について、しかも、会計基準というルールの中で情報を作っているにすぎません。

さらに、過去の情報も重要ですが、経営となると短期的あるいは中長期的な情報が求められます。

これらに応えるには、会計や税務のルールからアタマを解き放して、数年単位で考えなければなりません。

たとえば先行投資というと、ついつい会計や税務のルールでいうところの固定資産で考えてしまいますが、実際には経理上は費用処理されたものも含めておカネが出ているわけです。

また、今期の売上高が云々、前期と比較したら云々というのは、あくまでも年間ごとの比較にすぎませんし、または、全社的にどうだったのか、せいぜい部門やセグメントでまとめたところでどうだったのかという情報でしかありません。

現場では、会計理論とかまったく関係ないところで収益性だとかもろもろのノルマだとかを見ています。

これらを、いわゆる制度会計というか財務会計の枠で云々しているだけでなく、いったんその枠は取っ払って、経理データから経営に有用な情報を抽出・加工できるかどうかが求められていると思われます。

何より、経営上の関心事に応えることができる基礎データは、日々の経理上のデータなのです。

(おわり)