( 2 )設例と数値例 配偶者の税額軽減 Part1
相続人が配偶者と子2人であり、配偶者の相続税額の軽減を適用するというシンプルな設例で相続税の計算を行います。
事例
- 被相続人Aの相続人は、配偶者B、長男Cそして長女Dの3人です。
- Aの(債務や葬儀費用等の控除後の)正味の財産の課税価格の合計額は1億円です。
設問
次の場合の各人の納付する相続税額はいくらか
設問( 1 )
( 1 )基礎控除額の計算
被相続人Aの相続人は、配偶者B、長男Cそして長女Dの3人です。
3人はいずれも法定相続人です。
基礎控除額は、3,000万円× 600万円×法定相続人の数(3人)= 4,800万円です。
( 2 )課税遺産総額の計算
課税遺産総額は、正味の財産の課税価格の合計額(1億円)から基礎控除額(4,800万円)を差し引いた額です。
1億円− 4,800万円= 5,200万円
( 3 )課税遺産総額を法定相続分で割り振り
実際に誰がどの財産を取得したかとは無関係に、課税遺産総額を法定相続分で割り振ります。
正味の財産の課税価格の合計額(1億円)ではなく、基礎控除額を差し引いた課税遺産総額(5,200万円)です。
法定相続分は配偶者と子で1/2ずつ、すなわち、Bが1/2、Cが1/4、Dで1/4です。
課税遺産総額(5,200万円)を、Bに1/2、Cに1/4、Dに1/4に割り振ります。
Bは2,600万円(= 5,200万円× 1/2)、Cは1,300万円(= 5,200万円× 1/4)、 Dは1,300万円(= 5,200万円× 1/4)です。
( 4 )相続税の総額の計算
課税遺産総額を法定相続人に法定相続分で割り振った額について、法定相続人ごとに相続税額を算定します。 この額が各人の納税額ではありません。
相続税額の計算には速算表を用います。
BもCもDもいずれも「3,000万円以下」となります(税率15%、控除額50万円)。
Bは、2,600万円× 15%− 50万円= 340万円
Cは、1,300万円× 15%− 50万円= 145万円
Dは、1,300万円× 15%− 50万円= 145万円
3人の合計額630万円(= 340万円+ 145万円+ 145万円)が相続税の総額となります。
( 5 )各人ごとの相続税額の計算
相続税の総額を、各人に実際に取得した正味の財産の課税価格に応じて割り振ります。
「各人が実際に取得した正味の財産の課税価格」であって、合計すれば正味の財産の課税価格の合計額となります。
相続税の総額の計算では、課税価格の合計額ではなく基礎控除額を差し引いた課税遺産総額を法定相続分で割り振りましたが、ここでは、課税価格の合計額を各人が実際に取得した正味の課税価格の割合で割り振ります。
Bは、630万円×(5,000万円/1億円)= 315万円
Cは、630万円×(2,500万円/1億円)= 157.5万円
Dは、630万円×(2,500万円/1億円)= 157.5万円
315万円(B)+ 157.5万円(C)+ 157.5万円(D)= 630万円
( 6 )各人の納付額の計算
各人の相続税額から控除額等の加減算を行った額が納付すべき税額となります。
Bは、配偶者に対する相続税額の軽減(相続税法19条の2)を適用します。これは、配偶者が取得した正味の財産の課税価格が、「1億6,000万円」か「配偶者の法定相続分相当額」のいずれか大きい額までは相続税がかからないという制度です。
Bが取得した正味の財産の課税価格は5,000万円であり、正味の財産の課税価格の合計額1億円の1/2相当額、すなわち法定相続分相当額です。1億6,000万円とBの法定相続分相当額の大きい方(1億6,000万円)まではBに相続税はかかりません。よって、Bの相続税額315万円は税額の軽減によりゼロになります。
よって、各人の納付する税額は、Bが0円、Cが157.5万円、Dが157.5万円となります。
コメント
本問は、相続人が法定相続分で財産の取得をした場合です。
相続税の総額の計算のときは、正味の財産の課税価格の合計額から基礎控除を差し引いた課税遺産総額(5,200万円)を法定相続分で割り振ります。 その結果、相続税の総額は630万円となります。
相続税の総額を、各人が実際に取得した正味の財産の課税価格(合計1億円)であらためて割り振ります。
配偶者Bは税額の軽減があるため、納付する税額はゼロになります。
設問( 2 )
「( 4 )相続税の総額の計算」まではまったく同じです。
本問ではDが取得した財産はゼロで、これは結果的は相続放棄したような形となっています。なお、基礎控除額や相続税の総額の計算で用いる「法定相続人の数」では、相続放棄した人も相続放棄しなかったものとします。
( 5 )各人ごとの相続税額の計算
相続税の総額を、各人に実際に取得した正味の財産の課税価格に応じて割り振ります。
「実際に取得した正味の財産の課税価格」であって、各人の分を合計すれば「正味の財産の課税価格の合計額」となります。
相続税の総額の計算では、正味の財産の課税価格の合計額ではなく基礎控除額を差し引いた課税遺産総額を法定相続分で割り振りましたが、ここでは、正味の財産の課税価格の合計額を各人が実際に取得した課税価格の割合で割り振ります。
Bは、630万円×(5,000万円/1億円)= 315万円
Cは、630万円×(5,000万円/1億円)= 315万円
Dは、630万円×(0円/1億円)= 0円
315万円(B)+ 315万円(C)+ 0円(D)= 630万円
( 6 )各人の納付額の計算
各人の相続税額から控除額等の加減算を行った額が納付すべき税額となります。
Bは、配偶者に対する相続税額の軽減(相続税法19条の2)を適用します。これは、配偶者が取得した正味の財産の課税価格が、「1億6,000万円」か「配偶者の法定相続分相当額」のいずれか大きい額までは相続税がかからないという制度です。
Bが取得した正味の財産の課税価格は5,000万円であり、正味の財産の課税価格の合計額1億円の1/2相当額、すなわち法定相続分相当額と同じです。1億6,000万円とBの法定相続分相当額の大きい方(1億6,000万円)まではBに相続税はかかりません。よって、Bの相続税額315万円は税額の軽減によりゼロになります。
よって、各人の納付する税額は、Bが0円、Cが315万円、Dが0円となります。
コメント
本問は、相続人が法定相続分とは異なる財産の取得をした場合です。
この場合でも、相続税の総額(3人全員で負担すべき税額)は変わりません(630万円)。
相続税の総額を、各人が実際に取得した正味の財産の課税価格(合計1億円)で割り振ります。
配偶者Bは税額の軽減があるため、納付する税額はゼロになります。
設問( 3 )
「( 4 )相続税の総額の計算」まではまったく同じです。
本問ではCとDが取得した財産はゼロで、これは結果的は相続放棄したような形となっています。なお、基礎控除額や相続税の総額の計算で用いる「法定相続人の数」では、相続放棄した人も相続放棄しなかったものとします。
( 5 )各人ごとの相続税額の計算
相続税の総額を、各人に実際に取得した正味の財産の課税価格に応じて割り振ります。
「実際に取得した正味の財産の課税価格」であって、各人の分を合計すれば「正味の財産の課税価格の合計額」となります。
相続税の総額の計算では、正味の財産の課税価格の合計額ではなく基礎控除額を差し引いた課税遺産総額を法定相続分で割り振りましたが、ここでは、正味の財産の課税価格の合計額を各人が実際に取得した課税価格の割合で割り振ります。
Bは、630万円×(1億円/1億円)= 630万円
Cは、630万円×(0円/1億円)= 0円
Dは、630万円×(0円/1億円)= 0円
630万円(B)+ 0円(C)+ 0円(D)= 630万円
(6)各人の納付額の計算
各人の相続税額から控除額等の加減算を行った額が納付すべき税額となります。
Bは、配偶者に対する相続税額の軽減(相続税法19条の2)を適用します。これは、配偶者が取得した正味の財産の課税価格が、「1億6,000万円」か「配偶者の法定相続分相当額」のいずれか大きい額までは相続税がかからないという制度です。
Bが取得した正味の財産の課税価格は1億円であり、1億円の1/2相当額、すなわち法定相続分相当額5,000万円を超えます。しかし、1億6,000万円とBの法定相続分相当額(5,000万円)の大きい方(1億6,000万円)まではBに相続税はかかりません。よって、Bの相続税額630万円は税額の軽減によりゼロになります。
よって、各人の納付する税額は、Bが0円、Cが0円、Dが0円となります。
コメント
本問は、相続人が法定相続分とは異なる財産の取得をした場合で、しかも、すべてを配偶者が取得した場合です。
この場合でも、相続税の総額(3人全員で負担すべき税額)は変わりません(630万円)。
相続税の総額を、各人が実際に取得した正味の財産の課税価格(合計1億円)で割り振ります。
配偶者Bは税額の軽減があるため、納付する税額はゼロになります。このため、全員が納付する相続税額がありません。
設問( 4 )
「( 4 )相続税の総額の計算」まではまったく同じです。
本問ではBとDが取得した財産はゼロで、これは結果的は相続放棄したような形となっています。なお、基礎控除額や相続税の総額の計算で用いる「法定相続人の数」では、相続放棄した人も相続放棄しなかったものとします。
( 5 )各人ごとの相続税額の計算
相続税の総額を、各人に実際に取得した正味の財産の課税価格に応じて割り振ります。
「実際に取得した正味の財産の課税価格」であって、各人の分を合計すれば「正味の財産の課税価格の合計額」となります。
相続税の総額の計算では、正味の財産の課税価格の合計額ではなく基礎控除額を差し引いた課税遺産総額を法定相続分で割り振りましたが、ここでは、正味の財産の課税価格の合計額を各人が実際に取得した課税価格の割合で割り振ります。
Bは、630万円×(0円/1億円)= 0円
Cは、630万円×(1億円/1億円)= 630万円
Dは、630万円×(0円/1億円)= 0円
0円(B)+ 630万円(C)+ 0円(D)= 630万円
( 6 )各人の納付額の計算
各人の相続税額から控除額等の加減算を行った額が納付すべき税額となります。
Bは財産を取得していないために、配偶者に対する相続税額の軽減はありません。
よって、各人の納付する税額は、Bが0円、Cが630万円、Dが0円となります。
コメント
本問は、相続人が法定相続分とは異なる財産の取得をした場合で、しかも、すべてを子1人が取得した場合です。
この場合でも、相続税の総額(3人全員で負担すべき税額)は変わりません(630万円)。
相続税の総額を、各人が実際に取得した正味の財産の課税価格(合計1億円)で割り振ります。
長男Cがすべてを相続し、長男に係る控除はありませんから、結果として相続税の総額と同じ額を納付することになります。
設問( 5 )
「( 4 )相続税の総額の計算」まではまったく同じです。
( 5 )各人ごとの相続税額の計算
通常は、相続税の総額を各人に実際に取得した正味の財産の課税価格に応じて割り振るところですが、遺産が未分割の状態となっています。
相続税の申告と納税は、被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10ヶ月以内に行うことになっています。相続財産が分割されていない場合であってもこの期限までにしなければなりません。分割されていないということで相続税の申告期限が延びることはありません。
そのため、相続財産の分割協議が成立していないときは、各相続人などが民法に規定する相続分(法定相続分)または包括遺贈の割合に従って財産を取得したものとして相続税の計算をし、申告と納税をする必要があります。
よって、Aの正味の財産の課税価格の合計額を、法定相続分に従って各相続人が取得したとして割り振りを行います。
すると、相続税の総額の計算と似ることになりますが、ここでは課税遺産総額ではなく正味の財産の課税価格の合計額を法定相続分で割り振ります。
法定相続分は配偶者と子で1/2ずつ、すなわち、Bが1/2、Cが1/4、Dで1/4です。
正味の財産の課税価格の合計(1億円)を、Bに1/2、Cに1/4、Dに1/4に割り振ります。
Bは5,000万円(= 1億円× 1/2)、Cは2,500万円(= 1億円× 1/4)、 Dは2,500万円(= 1億円× 1/4)です。
Bは、630万円×(5,000万円/1億円)= 315万円
Cは、630万円×(2,500万円/1億円)= 157.5万円
Dは、630万円×(2,500万円円/1億円)= 157.5万円
315万円(B)+ 157.5万円(C)+ 157.5万円(D)= 630万円
( 6 )各人の納付額の計算
各人の相続税額から控除額等の加減算を行った額が納付すべき税額となります。
Bは配偶者であるため、配偶者の相続税額の軽減が受けられそうです。しかし、この配偶者の税額軽減は、配偶者が遺産分割などで実際に取得した財産を基に計算されることになっているため、相続税の申告期限までに分割されていない財産は税額軽減の対象になりません。
よって、各人の納付する税額は、Bが315万円、Cが157.5万円、Dが157.5万円となります。
コメント
本問は、相続税の申告期限までに遺産が分割されていない場合です。
この場合でも、相続税の総額(3人全員で負担すべき税額)は変わりません。
財産を誰がいくら取得したかによって各人の負担する税額が異なるところ、分割されていないため、法定相続分で取得したものとして各人の税額を計算します。
ただし、「申告期限後3年以内の分割見込書」を提出し、申告期限までに分割されなかった財産について申告期限から3年以内に分割したときは、配偶者の相続税額の軽減を受けることができます。
「申告期限後3年以内の分割見込書」には、『相続税の申告書「第11表(相続税がかかる財産の明細書)」に記載されている財産のうち、まだ分割されていない財産については、申告書の提出期限後3年以内に分割する見込みです。』として、分割されていない理由と分割の見込みの詳細を記載します。
「申告期限後3年以内の分割見込書」は、相続税の申告期限までに、相続税の申告の添付書類として提出します。
相続税の申告書の提出期限後3年以内に遺産分割をし、配偶者の相続税額の軽減を受ける場合には、遺産分割が成立した日の翌日から4か月以内に更正の請求を行う必要があります。
なお、相続税の申告期限から3年を経過する日までに分割できないやむを得ない事情があり、税務署長の承認を受けた場合で、その事情がなくなった日の翌日から4ヶ月以内に分割されたときも、配偶者の相続税額の軽減を受けることができます。
( つづく )