( 7 )設例と数値例 生前贈与(暦年課税)Part1

今回から生前贈与の問題について検討します。生前贈与には相続時精算課税制度を適用するかしないかによって大きく異なりますが、ここでは相続時精算課税制度を適用しない場合(暦年課税)で検討します。

今回の主な論点は「相続財産に加算される生前贈与の時期」「相続または遺贈で財産を取得しなかった場合の生前贈与の加算」「相続または遺贈で財産を取得しなかったが死亡保険金や死亡退職金を受け取った場合の生前贈与の加算」「相続税額から控除する贈与税額(超過したら還付があるのか)」です。

「相続税だけ減らせばよいのか」「相続税も贈与税も財産の移転で流出する資金では同じ」と考えるかによって、そうとう異なると思われます。

事例

  • 被相続人Aは、平成28年3月15日に死亡しました。
  • 被相続人Aの相続人は、配偶者B、長男C、長女Dの3人です。
  • 長男C、長女Dともに、Aとの間に相続時精算課税制度の適用を受けていません。
  • 相続人はAから生前に贈与を受けていました。
  • BはAから、平成25年中に贈与を受けました。平成25年3月1日に900万円、4月1日に100万円です。平成25年分の贈与税の申告書で申告・納付した贈与税は231万円でした。
  • CはAから、平成27年4月1日に5,000万円の贈与を受けました。平成27年分の贈与税の申告書で申告・納付した贈与税は2,049.5万円でした。なお、Cは平成27年1月1日現在で20歳以上とし、特例贈与財産用の税率が適用されています。
  • DはAから平成25年3月1日に100万円、平成26年3月1日に100万円、平成27年3月1日に100万円の贈与を受けました。 しかし、基礎控除110万円に達していなかったので、各年分の贈与税の申告はしていません。 なお、DはAから平成28年3月1日にも100万円の贈与を受けました。
  • Aが死亡した時点での正味の財産の課税価格は4,000万円です。
  • 遺産分割協議の結果、Bが2,000万円、Cが1,000万円、Dが1,000万円を取得することになりました。

設問

設問( 1 )Aの相続税の申告の要否

Aの死亡時の財産は4,000万円です。

いっぽう、被相続人Aの法定相続人は、配偶者B、長男Cそして長女Dの3人です。

このため、相続税の基礎控除額は、3,000万円+ 600万円×法定相続人の数(3人)= 4,800万円です。

そうしますと、Aの死亡時の財産4,000万円よりも基礎控除額4,800万円が大きいので、Aの遺産に相続税は課されないとも思われます。

しかし、相続税の申告は、相続開始前3年以内に行われた贈与(相続時精算課税制度を適用していない場合)の課税価格については、相続財産に加算しなければならないことになっています。

そうしますと、少なくともCは平成27年に5,000万円の贈与を受けており、これを相続財産に加算すると、基礎控除の額を上回るため、相続税の申告が必要となります。

設問( 2 )各相続人等に加算すべき生前贈与の額および相続税等から控除しうる贈与税額

B、CそしてDは、Aの生前に贈与を受けていましたが、これを時系列にすると次のとおりです。

  • 平成25年3月1日  AからBへ900万円
  • 平成25年3月1日  AからDへ100万円
  • 平成25年4月1日  AからBへ100万円
  • 平成26年3月1日  AからDへ100万円
  • 平成27年3月1日  AからDへ100万円
  • 平成27年4月1日  AからCへ5,000万円
  • 平成28年3月1日  AからDへ100万円

各相続人等に加算する生前贈与の額

まず、相続税の申告において加算すべき贈与財産は、被相続人の相続開始(死亡)前3年以内の贈与です。 Aの相続開始は平成28年3月15日なので、平成25年3月15日以降の贈与が加算の対象になります。 このため、平成25年3月1日の贈与(Bに900万円、Dに100万円)は、加算の対象とはなりません。

また、加算の対象になるかどうかについては、贈与税の申告をしているかどうか、贈与税が課されたかどうかとは無関係です。 よって、Dに対する平成25年3月15日以降の贈与はすべて(平成28年3月1日の100万円も含めて)加算の対象となります。

そして、加算する額は、贈与税の基礎控除額(110万円)を差し引かない額です。

以上から加算する贈与の額は、次のとおりです。これらは遺産分割の対象というより、受贈者がそれぞれ取得したことになります。

  • Bに加算する額・・・100万円
  • Cに加算する額・・・5,000万円
  • Dに加算する額・・・300万円(平成26年3月1日、平成27年3月1日、平成28年3月1日の各100万円)

合計5,400万円を、Aの死亡時の正味の財産の課税金額4,000万円に加算して、相続税の総額を計算することになります。

各人の負担する相続税額から控除しうる贈与税額

相続税額から控除しうる贈与税額は、相続税の課税価格に加算される生前贈与の価格に対応する部分の贈与税額です。

たとえば、Bについては、平成25年分の贈与税の申告で、課税価格1,000万円に対して231万円の贈与税を申告・納付しています。しかし、この231万円は、課税価格1,000万円に対するもので、実際に相続税の課税価格に加算されるのは、平成25年3月15日以降の贈与100万円です。このため、Bが負担する相続税の額から控除しうる贈与税の額は、231万円のうち100万円に対応する部分(23.1万円)です。

以上から、各人の負担すべき相続税額から控除しうる贈与税額額は、次のとおりです。

  • Bについて控除しうる贈与税額・・・23.1万円
  • Cについて控除しうる贈与税額・・・2,049.5万円
  • Cについて控除しうる贈与税額・・・0円(贈与税額は発生していないため)

Cの5,000万円の贈与に対する贈与税額2,049.5万円は、いわゆる平成27年1月1日からの贈与に適用される「特例贈与財産用の税率」によって算定されています。

設問( 3 )各人の納付すべき相続税額

( 1 )正味の財産の課税価格の合計額の集計

本問では、Aの死亡時の正味の財産の課税価格は4,000万円ですが、相続税法上、Aの相続開始前3年以内の贈与については贈与時の課税価格(5,400万円)を加算することになります。

4,000万円+ 5,400万円= 9,400万円です。

内訳は次のとおりです。

  • Bは、相続による取得分2,000万円+贈与財産加算分1,000万円= 2,100万円
  • Cは、相続による取得分1,000万円+贈与財産加算分5,000万円= 6,000万円
  • Dは、相続による取得分1,000万円+贈与財産加算分300万円= 1,300万円

( 2 )課税遺産総額の計算

課税遺産総額は、正味の財産の課税価格の合計額(9,400万円)から基礎控除額(4,800万円)を差し引いた額です。

9,400万円− 4,800万円= 4,600万円

( 3 )課税遺産総額を法定相続分で割り振り

実際に誰がどの財産を取得したかとは無関係に、課税遺産総額を法定相続分で割り振ります。

正味の財産の課税価格の合計額(9,400万円)ではなく、基礎控除額を差し引いた課税遺産総額(4,600万円)です。

法定相続分は配偶者と子で1/2ずつ、すなわち、Bが1/2、Cが1/4、Dで1/4です。

課税遺産総額(4,600万円)を、Bに1/2、Cに1/4、Dに1/4に割り振ります。

Bは2,300万円(= 4,600万円× 1/2)、Cは1,150万円(= 4,600万円× 1/4)、 Dは1,150万円(= 4,600万円× 1/4)です。

( 4 )相続税の総額の計算

課税遺産総額を法定相続人に法定相続分で割り振った額について、法定相続人ごとに相続税額を算定します。 この額が各人の納税額ではありません。

相続税額の計算には速算表を用います。

BもCもDもいずれも「3,000万円以下」となります(税率15%、控除額50万円)。

Bは、2,300万円× 15%− 50万円= 295万円

Cは、1,150万円× 15%− 50万円= 122.5万円

Dは、1,150万円× 15%− 50万円= 122.5万円

3人の合計額540万円(= 295万円+ 122.5万円+ 122.5万円)が相続税の総額となります。

( 5 )各人ごとの相続税額の計算

相続税の総額を、各人に実際に取得した正味の財産の課税価格に応じて割り振ります。

相続税の総額の計算では、課税価格の合計額ではなく基礎控除額を差し引いた課税遺産総額を法定相続分で割り振りましたが、ここでは、課税価格の合計額を各人が実際に取得した正味の課税価格の割合で割り振ります。

相続税の総額の計算では、正味の財産の課税価格の合計額(9,400万円)ではなく基礎控除額(4,800万円)を差し引いた課税遺産総額(4,600万円)を法定相続分で割り振りましたが、ここでは、正味の財産の課税価格の合計額を各人が実際に取得した正味の課税価格の割合(あん分割合)で割り振ります。

ここでのあん分割合は小数点以下2位までの値で行うものとします。

Bは、540万円× 0.220(= 2,100万円/9,400万円)= 118.8万円

Cは、540万円× 0.640(= 6,000万円/9,400万円)= 345.6万円

Dは、540万円× 0.140(= 1,300万円/9,400万円)= 75.6万円

118.8万円(B)+ 345.6万円(C)+ 75.6万円(D)= 540万円

( 6 )Bの納付すべき相続税額の計算

Bの納付すべき相続税額については、「贈与税額控除」と「配偶者に対する相続税額の軽減」が適用されます。

Bに割り振られた相続税の額は118.8万円です。いっぽう、Bが生前贈与で取得した100万円に係る贈与税額は23.1万円です(設問(2)参照)。

そこで、まず、贈与税額控除を行います。

118.8万円− 23.1万円= 95.7万円

つぎに、配偶者に対する相続税額の軽減を適用します。

正味の財産の課税価格の合計額(9,400万円)×配偶者の法定相続分(1/2)= 5,400万円です。5,400万円と1億6,000万円のうち大きい額(1億6,000万円)が課税価格の合計額のうち配偶者の法定相続分相当額となります。いっぽう、Bが実際取得した課税価格は2,100万円で、相続税の総額は540万円です。

配偶者の相続税額の軽減の基礎となる金額は「相続税の総額 ×(配偶者が取得した課税価格と配偶者の法定相続分相当額のいずれか小さい額) /  課税価格の合計額」で計算されます。

Bが取得した課税価格(2,100万円)と配偶者の法定相続分相当額(5,400万円)のいずれか小さい額は2,100万円です。

配偶者の相続税額の軽減の基礎となる金額は、540万円× 2,100万円/9,400万円= 120万6,382円となります。

いっぽう、配偶者の相続税額の軽減の限度額は、相続税の総額をBが実際に取得した財産の課税価格で割り振った額(118.8万円)から贈与税額控除額23.1万円を差し引いた95.7万円です(上記参照)。

120万6,382円と95.7万円のいずれか少ないほうの額95.7万円がBの税額軽減の額となります。

よって、Bの納付すべき相続税額は、Bに割り振られた118.8万円から贈与税額控除額23.1万円と配偶者軽減額95.7万円を差し引いたゼロとなります。

( 7 )Cの納付すべき相続税額の計算

Cの納付すべき相続税額については、「贈与税額控除」が適用されます。

Cに割り振られた相続税の額は345.6万円です。いっぽう、Bが生前贈与で取得した5,000万円に係る贈与税額は2,049.5万円です(設問(2)参照)。

そこで、贈与税額控除を行いますが、あきらかに生前贈与に係る贈与税額のほうが大きい額です。少なくともCが納付すべき相続税額はゼロです。

問題は、相続税額を超過した部分の贈与税の額(ここでは、2,049.5万円− 345.6万円= 1,703.9万円は還付を受けることができるのかです。

相続税の課税価格に過去の贈与額を加算することとのバランスから、当該贈与について課された贈与税の額を、各相続人等が負担する相続税の額から控除することができます。しかし、相続税の課税価格に加算した過去の贈与価格に係る贈与税の額の方が、相続税の額より大きくても、その分は還付されません。

ちなみに、相続税の申告で過去の贈与財産に係る贈与税額について還付があるのは、相続時精算課税制度を適用している場合です。

( 8 )Dの納付すべき相続税額の計算

Dに割り振られた相続税の額は75.6万円です。いっぽう、Bが生前贈与で取得した300万円には贈与税は課されていないため、贈与税額控除はありません。

( 9 )各人の納付すべき相続税額まとめ

以上から、各人の納付すべき相続税額(100円未満を切り捨てます。)は、Bが0円、Cが0円、Dが75.6万円となります。

設問( 4 )相続または遺贈によって財産を取得しなかった場合と生前贈与加算

生前贈与財産の加算については、相続または遺贈によって財産を取得した人にのみ適用されます。相続または遺贈によって財産を取得していない場合には、生前贈与財産の加算はありません。

Cは、生前贈与で5,000万円を取得し、相続(遺産分割)で1,000万円を取得しました(合計6,000万円)。

もし、Cが相続で何も取得しなかった場合には、Cが生前贈与で取得した5,000万円は加算しません。Cの取得した財産は1,000万円となります。

この場合における各人の正味の財産の課税金額の合計額は、9,400万円− 5,000万円= 4,000万円となります。

すると、各人が相続で取得した課税価格は4,000万円、生前贈与で加算された額は100万円(B)と300万円(D)の400万円、合計4,400万円です。

いっぽう、基礎控除額は4,800万円なので、全員に対して相続税は課されることはありません。

設問( 5 )相続または遺贈では財産を取得していないが、死亡保険金等を受け取っていた場合

生前贈与財産の加算については、相続または遺贈によって財産を取得した人にのみ適用されます。相続または遺贈によって財産を取得していない場合には、生前贈与財産の加算はありません。

ただし、設問(4)と異なるのは、相続または遺贈では財産を取得していないものの、死亡保険金や死亡退職金等を受け取っていた場合です。

被相続人が保険料を負担していた生命保険契約については、契約によって受取人が決まっているため、死亡保険金は相続(遺産分割)の対象とはなりません。もっとも、相続税法では、死亡保険金や死亡退職金については、相続や遺贈によって取得したものとみなされます。

「みなし相続財産」としての死亡保険金

被相続人の死亡によって取得した生命保険金や損害保険金で、その保険料の全部または一部を被相続人が負担していたものは、相続税の課税対象となります。

死亡保険金については、保険契約により受取人が決まっているため、相続(遺産分割)や遺贈(遺言)で取得するものとはいえません。

しかし、相続税の計算上は、この死亡保険金は相続または遺贈によって取得した財産とみなされます。

生前贈与加算との関係

死亡保険金の受取りが相続または遺贈によって取得したものとみなされるということは、相続または遺贈では財産を取得していなかったとしても、生前贈与の財産も加算の対象となります。

あらためて相続税額の計算

死亡保険金には非課税限度額があります。その額は500万円×「法定相続人の数」となります。 本問では、配偶者B、長男C、長女Dの3人であるため、非課税限度額は500万円× 3人= 1,500万円です。

Cが受け取った死亡保険金は1,000万円ですから、非課税限度額を超えていないため、課税される死亡保険金の額はゼロです。

正味の財産の課税価格の合計額は、Aの死亡時の正味の財産の課税価格の合計である4,000万円(Bが2,000万円、Dが2,000万円)に、Cが相続または遺贈によって取得したものとみなされる死亡保険金0円(1,000万円の全額が非課税)に、Aの相続開始前3年以内の贈与については贈与時の課税価格を加算することになります。Bは100万円(設問(2)参照)、Dは300万円(同)を加算します。

さらに、Cは死亡保険金の受取りによって、相続または遺贈によってAから財産を取得したとみなされます。よって、Cが生前に贈与を受けた5,000万円は加算の対象となります。よって、正味の財産の課税価格の合計額は次のとおりです。

4,000万円(= 2,000万円(B)+ 2,000万円(D))+ 0円(= 1,000万円(死亡保険金)− 1,000万円(非課税額))+ 5,400万円(= 100万円(B)+ 5,000万円(C)+ 300万円(D))= 9,400万円です。

内訳は、Bが2,100万円(相続により取得した2,000万円+ 生前贈与分100万円)、Cが5,000万円(相続に取得したとみなされる1,000万円(死亡保険金)− 1,000万円(非課税額)+ 生前贈与分5,000万円)、Dが2,300万円(相続により取得した2,000万円+ 生前贈与分300万円)です。

課税遺産総額は、正味の財産の課税価格の合計額(9,400万円)から基礎控除額(4,800万円)を差し引いた額です。

9,400万円− 4,800万円= 4,600万円

相続税の総額を計算します。まず、実際に誰がどの財産を取得したかとは無関係に、課税遺産総額(4,600万円)を法定相続分(Bが1/2、Cが1/4、Dで1/2)で割り振ります。

Bは2,300万円(= 4,600万円× 1/2)、Cは1,150万円(= 4,600万円× 1/4)、 Dは1,150万円(= 4,600万円× 1/4)です(設問(3)参照)。

つぎに、法定相続人ごとに割り振った額に基づいて相続税額を算定し、これを合計して相続税の総額とします。

Bは、2,300万円× 15%− 50万円= 295万円、Cは、1,150万円× 15%− 50万円= 122.5万円、Dは、1,150万円× 15%− 50万円= 122.5万円となり、 3人の合計額540万円(= 295万円+ 122.5万円+ 122.5万円)が相続税の総額となります(設問(3)参照)。

相続税の総額(540万円)を各人が実際に取得した正味の課税価格(合計9,400万円)の割合(あん分割合)で割り振ります。 あん分割合は小数点以下2位までの値で行うものとします。

Bは、540万円× 0.220(= 2,100万円/9,400万円)= 118.8万円

Cは、540万円× 0.530(= 5,000万円/9,400万円)= 286.2万円

Dは、540万円× 0.250(= 2,300万円/9,400万円)= 135万円

118.8万円(B)+ 286.2万円(C)+ 135万円(D)= 540万円

そして、各人に割り振られた相続税額から、各人ごとの控除額を差し引いて納付すべき相続税額を計算します。

Bの納付すべき相続税額は、割り振られた118.8万円から贈与税額控除23.1万円、配偶者に対する相続税額の軽減95.7万円を差し引いてゼロとなります(設問(3)参照)。

Cの納付すべき相続税額は、割り振られた286.2万円は全額贈与税額控除を受けてゼロとなります。なお、贈与税の還付はありません。

Dの納付すべき相続税額は、割り振られた135万円となります。

設問( 6 )生前贈与をまったくしなかった場合の税負担

現実の相続ではどうすることもできませんが、机上の話なので、もし生前贈与がまったくなかった場合と比較してみましょう。ただし、いわゆる相続税対策にあたって、生前贈与の額をいくらにするのか、その場合のリスクはどうなるのかを判断することは重要です。

「生前贈与がまったくなかった場合」なので、Aの死亡前3年を超えるため加算の対象とならなかった生前贈与(Aの900万円、Dの100万円)も含めて、すべて相続で取得したものとします。

ここで、「生前贈与がなかったら死亡時の財産額も変わるのだから、遺産分割協議の内容も変わるだろ!」おっしゃるとおりでございますが、ここでは税負担の比較をしたいので、あえて設問どおりで行います。

設例に従った内容(Aの死亡時の4,000万円の財産について、Bが2,000万円、Cが1,000万円、Dが1,000万円を分割)

設例では、Aの死亡時の4,000万円の財産について、Bが2,000万円、Cが1,000万円、Dが1,000万円を分割しました。

これに、生前贈与の額(Bは1,000万円(死亡前3年超900万円含みます。)、Cは5,000万円、Dは400万円(死亡前3年超100万円含みます。)を加え、Bは3,000万円、Cは6,000万円、Dは1,400万円を相続によって取得したものとします。

以上から、正味の財産の課税価格の合計額は1億400万円となります。内訳は、Bが3,000万円、Cが6,000万円、Dが1,400万円です。

課税遺産総額は、正味の財産の課税価格の合計額(1億400万円)から基礎控除額(4,800万円)を差し引いた額です。

1億400万円− 4,800万円= 5,600万円

相続税の総額を計算します。まず、実際に誰がどの財産を取得したかとは無関係に、課税遺産総額(5,600万円)を法定相続分(Bが1/2、Cが1/4、Dで1/2)で割り振ります。

Bは2,800万円(= 5,600万円× 1/2)、Cは1,400万円(= 5,600万円× 1/4)、 Dは1,400万円(= 5,600万円× 1/4)です。

つぎに、法定相続人ごとに割り振った額に基づいて速算表で相続税額を算定し、これを合計して相続税の総額とします。

Bは、2,800万円× 15%− 50万円= 370万円、Cは、1,400万円× 15%− 50万円= 160万円、Dは、1,400万円× 15%− 50万円= 160万円となり、 3人の合計額690万円(= 370万円+ 140万円+ 140万円)が相続税の総額となります。

相続税の総額(690万円)を各人が実際に取得した正味の課税価格(合計1億400万円)の割合(あん分割合)で割り振ります。 あん分割合は小数点以下2位までの値で行うものとします。

Bは、690万円× 0.290(= 3,000万円/1億400万円)= 200.1万円

Cは、690万円× 0.580(= 6,000万円/1億400万円)= 400.2万円

Dは、690万円× 0.130(= 1,400万円/1億400万円)= 89.7万円

200.1万円(B)+ 400.2万円(C)+ 89.7万円(D)= 690万円

そして、各人に割り振られた相続税額から、各人ごとの控除額を差し引いて納付すべき相続税額を計算します。

Bの納付すべき相続税額は、割り振られた200.1万円から配偶者に対する相続税額の軽減1,990,384円(計算過程割愛します。)を差し引いた10,616円の100円未満を切り捨てて10,600円となります。

Cの納付すべき相続税額は、割り振られた400.2万円、Dの納付すべき相続税額は、割り振られた89.7万円です。

B、C、Dの納付すべき相続税額の合計額は490万9,600円です。

ここで、設例の税負担額を確認します。Bは平成25年分の贈与税を231万円負担し、Cは平成27年分の贈与税を2049.5万円負担し、相続税はBがゼロ、Cがゼロ、Dが75.6万円でした。合計しますと、2,356.1万円です。

つまり、生前贈与をしたほうが、1,865万1,400円も税金が多かったということになります。

設問(4)(5)に従った内容(Aの死亡時の4,000万円の財産について、Bが2,000万円、Dが2,000万円を分割)

設問(4)(5)では、Aの死亡時の4,000万円の財産について、Bが2,000万円、Dが2,000万円を分割しました。

これに、生前贈与の額(Bは1,000万円(死亡前3年超900万円含みます。)、Cは5,000万円、Dは400万円(死亡前3年超100万円含みます。)を加え、Bは3,000万円、Cは6,000万円、Dは1,400万円を相続によって取得したものとします。

以上から、正味の財産の課税価格の合計額は1億400万円となります。内訳は、Bが3,000万円、Cが5,000万円、Dが2,400万円です。

課税遺産総額(5,600万円)は、相続税の総額(690万円)は上記と同じです。

相続税の総額(690万円)を各人が実際に取得した正味の課税価格(合計1億400万円)の割合(あん分割合)で割り振ります。 あん分割合は小数点以下2位までの値で行うものとします。

Bは、690万円× 0.290(= 3,000万円/1億400万円)= 200.1万円

Cは、690万円× 0.480(= 5,000万円/1億400万円)= 331.2万円

Dは、690万円× 0.230(= 2,400万円/1億400万円)= 158.7万円

200.1万円(B)+ 331.2万円(C)+ 158.7万円(D)= 690万円

そして、各人に割り振られた相続税額から、各人ごとの控除額を差し引いて納付すべき相続税額を計算します。

Bの納付すべき相続税額は、割り振られた200.1万円から配偶者に対する相続税額の軽減1,990,384円(計算過程割愛します。)を差し引いた10,616円の100円未満を切り捨てて10,600円となります。

Cの納付すべき相続税額は、割り振られた331.2万円、Dの納付すべき相続税額は、割り振られた158.7万円です。

B、C、Dの納付すべき相続税額の合計額は490万9,600円です。

ここで、設例の税負担額は2,356.1万円ですから、やはり生前贈与をしたほうが1,865万1,400円も税金が多かったということになります。

コメント

生前贈与について、相続時精算課税制度を適用しない場合(暦年課税)、相続開始より3年前の生前贈与については相続財産に加算する必要はありません。

これは、「相続税の負担を減らす」点では重要です。生前贈与をして長寿をまっとうされるほど効果が上がります。

しかし、「相続税も贈与税も、けっきょくは世代間の財産の移転に伴って流出する点では同じだ」ととらえてみましょう。

思わぬ落とし穴がふたつあります。

暦年課税による贈与税の額は、基礎控除110万円を差し引いた金額の大きさによって累進税率が適用されて計算されます。その年分の贈与金額が大きければ大きいほど贈与税額が大きくなります。

とはいえ、相続財産に加算された生前贈与金額に対応する贈与税額は、相続税額から控除することができます。しかし、暦年課税による贈与税額の場合は、相続税額より大きくても還付されることはありません。

また、「相続開始前3年超の生前贈与(暦年課税のもの)については相続財産に加算されない」ということは、「相続開始前3年超の生前贈与(暦年課税のもの)に係る贈与税については、相続税額から控除されることもない(納めっぱなし)」ということになります。

相続税の負担だけ見るのでしたらある意味でさほど困難ではないかもしれません。

しかし、相続税と贈与税の負担を総合的に考えると、生前贈与の額、それに対する贈与税の負担、想定される相続時の財産の額、それに対する相続税の負担、控除できる贈与税の額・・・いろいろな部分を検討し、かつ、人の余命という不確実な面も考慮しなければならないことになります。

( つづく )