( 4 )設例と数値例 相続放棄・養子制限 Part1

相続人が配偶者と実子3人、養子2人の合計6人であり、実子のうち1人が相続放棄をしているという事案です。養子については、基礎控除等の計算で用いる「法定相続人の数」において制限が生じます。

また、「死亡保険金を相続放棄した人が受け取った場合と非課税制度の適用の有無」「養子が受け取った死亡保険金と非課税制度の適用の有無」と検討する事案でもあります。

事例

  • 被相続人Aの相続人は、配偶者B、長男C、次男D、長女E、養子F、養子Gの6人です。
  • 長女Eは相続放棄をしました。
  • 養子G、養子Hともに特別養子縁組による養子ではありません。
  • 遺産分割協議で、Aの相続財産1億円を民法の法定相続分に従って分割しました。
  • その他、各人は死亡保険金を受け取っています。この保険金に係る保険料はすべてAが負担していたものです。 Bが2,000万円、Cが500万円、Dが500万円、Eが5,000万円、Fが500万円、Gが500万円です。

設問

設問( 1 )民法上の相続人は誰か

被相続人の配偶者は常に相続人となり(民法890条)、また、被相続人の子も相続人となります(民法887条)。よって、配偶者B、長男C、次男D、長女Eは相続人となります。

ただし、相続を放棄した者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなされます(民法939条)。よって、長女Eは相続人とはなりません。

いっぽう、 養子は、養子縁組の日から養親の嫡出子の身分を取得します(民法809条)。よって、養子Fと養子Gは被相続人Aの相続人となります。

以上から、被相続人Aの民法上の相続人は、B、C、D、F、Gの5人となります。

設問( 2 )遺産分割協議で誰がいくら取得したか

被相続人Aの民法上の相続人は、B、C、D、F、Gの5人となります。法定相続分は、配偶者と子で1/2ずつ、子は4人で1/8ずつです。よって、Bが1/2、Cが1/8、Dが1/8、Fが1/8、Gが1/8となります。

Aの遺産分割協議では、1億円を法定相続分に従って分割したので、Bが5,000万円、Cが1,250万円、Dが1,250万円、Fが1,250万円、Gが1,250万円となります。

設問( 3 )相続税の基礎控除額や相続税の総額を計算する場合の「法定相続人の数」は何人か

相続税の基礎控除額や相続税の総額を計算する場合の「法定相続人の数」は、民法で規定する相続人の数から修正をします。具体的には次のとおりです。

  • 相続の放棄があった場合には、その放棄がなかったものとする
  • 被相続人に実子がある場合には1人まで
  • 被相続人に実子がなく養子の数が2人以上である場合は2人まで

本問の場合、長女Eは相続放棄をしていますが、相続放棄がなかったものとするので、「法定相続人の数」に含めます。いっぽう、被相続人Aの実子がいるため、養子の数には制限があります。養子はFとGの2人ですが、「法定相続人の数」に含めるのは1人です。

以上から、相続税の基礎控除額や相続税の総額を計算する場合の「法定相続人の数」は、配偶者B、長男C、次男D、長女E、養子1名の5人となります。

設問( 4 )死亡保険金の非課税の適用を受ける者の範囲と各受取人の非課税額はいくらか

「みなし相続財産」としての死亡保険金

被相続人の死亡によって取得した生命保険金や損害保険金で、その保険料の全部または一部を被相続人が負担していたものは、相続税の課税対象となります。

なお、死亡保険金については、保険契約により受取人が決まっているため、相続(遺産分割)や遺贈(遺言)で取得するものとはいえません。

本問でも、相続放棄をした長女Eは死亡保険金を5,000万円受け取っています。

しかし、相続税の計算上は、この死亡保険金は相続または遺贈によって取得した財産とみなされます。

死亡保険金の非課税限度額(とその基礎となる「法定相続人の数」)

死亡保険金には非課税限度額があります。その額は500万円×「法定相続人の数」となります。

この「法定相続人の数」は、相続税の基礎控除額や相続税の総額を計算する場合の「法定相続人の数」と同じです。本問では、配偶者B、長男C、次男D、長女E、養子1名の5人となります。

よって、本問での非課税限度額は500万円× 5人= 2,500万円です。

非課税限度額が適用できない受取人

非課税限度額は2,500万円と算定されましたが、死亡保険金は6人が受け取っています。これをどう割り振るかが問題となります。

その前提として、非課税限度額が適用されない受取人があります。それは、相続放棄をした人(長女E)です。

相続放棄した人は「法定相続人の数」には含めても、非課税限度額そのものの適用を受けることができません。

いっぽう、養子については非課税限度額の算定の基礎となる「法定相続人の数」ではその数に制限を受けますが、非課税限度額そのものは適用を受けます。

以上から、非課税限度額2,500万円の割り振りを受けるのは、相続放棄をした長女Eを除くすべての受取人です。養子Fと養子Gのふたりもともに非課税限度額の割り振りを受けることができます。

長女Eを除いた死亡保険金の合計額は、Bが2,000万円、Cが500万円、Dが500万円、Fが500万円、Gが500万円の4,000万円です。

Bは、250万円×(2,000万円/4,000万円)= 1,250万円

Cは、250万円×(500万円/4,000万円)= 312.5万円

Dは、250万円×(500万円/4,000万円)= 312.5万円

Fは、250万円×(500万円/4,000万円)= 312.5万円

Gは、250万円×(500万円/4,000万円)= 312.5万円

1,250万円(B)+ 312.5万円(C)+ 312.5万円(D)+ 312.5万円(F)+ 312.5万円(G)= 2,500万円

各人が取得した死亡保険金のうち相続税が課税される金額

死亡保険金について、各人の取得する課税価格は次のとおりとなります。

Bは、2,000万円− 1,250万円= 750万円

Cは、500万円− 312.5万円= 187.5万円

Dは、500万円− 312.5万円= 187.5万円

E(相続放棄)は、5,000万円(非課税の適用なし)

F(養子)は、500万円− 312.5万円= 187.5万円(非課税の適用あり)

G(養子)は、500万円− 312.5万円= 187.5万円(非課税の適用あり)

設問(5)各人の相続税額と配偶者の軽減額

( 1 )基礎控除額の計算

民法上、被相続人Aの相続人は、配偶者B、長男C、次男D、長女E、養子F、養子Gの6人ですが、長女Eは相続放棄をしているため5人となります。

ただし、相続税の基礎控除額の計算の基礎となる「法定相続人の数」には、相続放棄をした人はしなかったものとして含め、いっぽう、実子がある場合の養子の数は1人までと制限されています。

本問では、配偶者B、長男C、次男D、長女E、養子1名の5人となります。

基礎控除額は、3,000万円× 600万円×法定相続人の数(5人)= 6,000万円です。

( 2 )正味の財産の課税価格の合計額の集計

まず、Aの遺産分割協議では、1億円を法定相続分に従って分割しています(設問(2)参照)。Bが5,000万円、Cが1,250万円、Dが1,250万円、Fが1,250万円、Gが1,250万円です。

つぎに、課税される死亡保険金の金額があります(設問(4)参照)。Bが750万円、Cが187.5万円、Dが187.5万円、Eが5,000万円、Fが187.5万円、Gが187.5万円です。

これらを集計すると、各人が取得した財産の課税価格は次のとおりとなります。

Bは、5,000万円+ 750万円= 5,750万円

Cは、1,250万円+ 187.5万円= 1,437.5万円

Dは、1,250万円+ 187.5万円= 1,437.5万円

Eは、5,000万円

Fは、1,250万円+ 187.5万円= 1,437.5万円

Gは、1,250万円+ 187.5万円= 1,437.5万円

5,750万円(B)+ 1,437.5万円(C)+ 1,437.5万円(D)+ 5,000万円(E)+ 1,437.5万円(F)+ 1,437.5万円(G)= 1億6,500万円

( 3 )課税遺産総額の計算

課税遺産総額は、正味の財産の課税価格の合計額(1億6,500万円)から基礎控除額(6,000万円)を差し引いた額です。

1億6,500万円− 6,000万円= 1億500万円

( 4 )課税遺産総額を「法定相続分」で割り振り

実際に誰がどの財産を取得したかとは無関係に、課税遺産総額を「法定相続分」で割り振ります。

正味の財産の課税価格の合計額(1億6,500万円)ではなく、基礎控除額を差し引いた課税遺産総額(1億500万円)です。

ところで、相続税の総額の計算の基礎となる「法定相続人の数」には、相続放棄をした人はしなかったものとして含め、いっぽう、実子がある場合の養子の数は1人までと制限されています。

本問では、配偶者B、長男C、次男D、長女E、養子1名の5人となります。

これを前提にした法定相続分は配偶者と子4人で1/2ずつ、すなわち、Bが1/2、Cが1/8、Dで1/8、Eで1/8、FまたはGで1/8です。

課税遺産総額(1億500万円)を、Bが1/2、Cが1/8、Dで1/8、Eで1/8、FまたはGで1/8に割り振ります。

Bは5,250万円(= 1億500万円× 1/2)、Cは1,312.5万円(= 1億500万円× 1/8)、Dは1,312.5万円(= 1億500万円× 1/8)、Eは1,312.5万円(= 1億500万円× 1/8)、FまたはGは1,312.5万円(= 1億500万円× 1/8)です。

( 4 )相続税の総額の計算

課税遺産総額を法定相続人に法定相続分で割り振った額について、法定相続人ごとに相続税額を算定します。 この額が各人の納税額ではありません。

相続税額の計算には速算表を用います。

Bは「1億円以下」となります(税率30%、控除額700万円)。

Bは、5,250万円× 30%− 700万円= 875万円

C、D、E、FまたはGの4人はいずれも「3,000万円以下」となります(税率15%、控除額50万円)。

Cは、1,312.5万円× 15%− 50万円= 146万8,750円

Dは、1,312.5万円× 15%− 50万円= 146万8,750円

Eは、1,312.5万円× 15%− 50万円= 146万8,750円

FまたはGは、1,312.5万円× 15%− 50万円= 146万8,750円

5人の合計額1,462.5万円(= 875万円+ 146.87万円+ 146.87万円+ 146.87万円+ 146.87万円)が相続税の総額となります。

( 5 )各人ごとの相続税額の計算

相続税の総額を、各人に実際に取得した正味の財産の課税価格に応じて割り振ります。

「各人が実際に取得した正味の財産の課税価格」であって、合計すれば正味の財産の課税価格の合計額となります。

相続税の総額の計算では、正味の財産の課税価格の合計額(1億6,500万円)ではなく基礎控除額(6,000万円)を差し引いた課税遺産総額(1億500万円)を法定相続分で割り振りましたが、ここでは、正味の財産の課税価格の合計額を各人が実際に取得した正味の課税価格の割合(あん分割合)で割り振ります。

あん分割合については、本問では小数点第3位までを用いるものとします。

Bは、1,462.5万円× 0.349(= 5,750万円/1億6,500万円)= 510万4,125円

Cは、1,462.5万円× 0.087(= 1,437.5万円/1億6,500万円)= 127万2,375円

Dは、1,462.5万円× 0.087(= 1,437.5万円/1億6,500万円)= 127万2,375円

Eは、1,462.5万円× 0.303(= 5,000万円/1億6,500万円)= 443万1,375円

Fは、1,462.5万円× 0.087(= 1,437.5万円/1億6,500万円)= 127万2,375円

Gは、1,462.5万円× 0.087(= 1,437.5万円/1億6,500万円)= 127万2,375円

510万4,125円(B)+ 127万2,375円(C)+ 127万2,375円(D)+ 443万1,375円(E)+ 127万2,375円(F)+ 127万2,375円(G)= 1,462.5万円

( 6 )各人の納付額の計算

各人の相続税額から控除額等の加減算を行った額が納付すべき税額となります。

Bは、配偶者に対する相続税額の軽減(相続税法19条の2)を適用します。これは、配偶者が取得した正味の財産の課税価格が、「1億6,000万円」か「配偶者の法定相続分相当額」のいずれか大きい額までは相続税がかからないとされる制度です。

Bが取得した正味の財産の課税価格は5,250万円であり、正味の財産の課税価格の合計額1億6,500万円の法定相続分(1/2)相当額は8,250万円です。1億6,000万円とBの法定相続分相当額(8,250万円)の大きい方(1億6,000万円)まではBに相続税はかかりません。

・・・のはずなのですが、端数処理等の関係で、若干相続税額が発生することもあります。「配偶者の相続税額の軽減」なので、軽減されていることは間違いありません。

そこで、配偶者の相続税額の軽減額を詳細に検討します。

正味の財産の課税価格の合計額(1億6,500万円)×配偶者の法定相続分(1/2)= 8,250万円です。8,250万円と1億6,000万円のうち大きい額(1億6,000万円)が課税価格の合計額のうち配偶者の法定相続分相当額となります。いっぽう、Bが実際取得した課税価格は5,750万円で、相続税の総額は1,462.5万円です。

配偶者の相続税額の軽減の基礎となる金額は「相続税の総額 ×(配偶者が取得した課税価格と配偶者の法定相続分相当額のいずれか小さい額) /  課税価格の合計額」で計算されます。

Bが取得した課税価格(5,750万円)と配偶者の法定相続分相当額(1億6,000万円)のいずれか小さい額は5,750万円です。

配偶者の相続税額の軽減の基礎となる金額は、1,462.5万円× 5,750万円/1億6,500万円= 509万6,590円となります。

いっぽう、配偶者の相続税額の軽減の限度額は、相続税の総額をBが実際に取得した財産の課税価格で割り振った額(上記の510万4,125円)です。

以上から、Bの相続税額の軽減額は、509万6,590円と510万4,125円のうち少ない額の509万6,590円となります。

よって、Bに割り振られた510万4,125円から軽減額509万6,590円を差し引いた7,535円から100円未満の端数を切り捨てた7,500円がBの納付すべき相続税額となります。

その他の各人の相続税額も、100円未満の端数を切り捨てた額となります。

以上から、各人の納付すべき相続税額は、Bが7,500円、Cが127万2,300円、Dが127万2,300円、Eが443万1,300円、Fが127万2,300円、Gが127万2,300円となります。

コメント

本事例は、「相続人中に相続放棄をした人がいる」「養子が複数いるために計算上の制限がかかる」「死亡保険金を相続放棄した人が受け取った場合と非課税制度の適用の有無」「養子が受け取った死亡保険金と非課税制度の適用の有無」「配偶者の相続税額の軽減があっても配偶者に納付すべき相続税が発生する」があるものです。

( つづく )