( 6 )設例と数値例 相続放棄・養子制限 Part3

前回とほぼ同じ事案で、孫養子が代襲相続人になった場合を検討します。論点としては、孫養子が代襲相続人になった場合には民法上の法定相続分はどうなるのか(子としての地位と代襲相続人としての地位)、相続税法特有の養子制限規定に影響を及ぼすのか(代襲相続人になると実子になる)、孫養子に適用される相続税の2割加算はどうなるのかです。

事例

  • 被相続人Aの家族は、配偶者B、長女C、養子D(死亡)、養子E、養子F、養子G(Dの子)、H(Dの子)
  • 養子は全員が特別養子縁組による養子ではありません。
  • 養子Dは、被相続人Aよりも前に死亡しています。
  • GとHは、養子Dの子です。このうちGはAと養子縁組しています。 よって、GはAからすると孫養子となります。
  • 遺産分割協議で、Aの相続財産10億円を民法の法定相続分に従って分割しました。

設問

設問( 1 )民法上の相続人は誰か

被相続人の配偶者は常に相続人となり(民法890条)、また、被相続人の子も相続人となります(民法887条)。よって、配偶者B、長女Cは相続人となります。

また、養子は、養子縁組の日から養親の嫡出子の身分を取得します(民法809条)。よって、養子E、養子Fも被相続人Aの相続人となります。

ここで、Aの死亡の前に養子Dは死亡しているため、養子DはAの相続人とはなりませんが、養子Dの子であるGとHは代襲相続人となります。

以上から、被相続人Aの民法上の相続人は、B、C、E、F、G、Hの6人となります。

設問( 2 )遺産分割協議で誰がいくら取得したか

被相続人Aの民法上の相続人は、B、C、E、F、G、Hの6人となります。法定相続分は、配偶者と子で1/2ずつということになりますが、ここでポイントとなるのがGです。GはAの養子であり、Aの子という身分での相続分と、死亡したDの代襲相続人という身分での相続分(Dの子はGとHなので1/2ずつ)を併せ持つということになります。

まず、Dが死亡していない場合には、配偶者Bは1/2、子はC、D、E、F、G(孫養子)の5人で1/10ずつの相続分があります。次に、Dは死亡しているため本来のDの相続分1/10をDの子のGとHで1/20ずつ代襲相続します。

このため、GはAの子としての相続分1/10と、Dの子としての代襲相続分1/20の合計3/20の相続分があります。

以上から、法定相続分は、Bが1/2、Cが1/10、Eが1/10、Fが1/10、Gが3/20、Hが1/20となります。

Aの遺産分割協議では、10億円を法定相続分に従って分割したので、Bが5億円、Cが1億円、Eが1億円、Fが1億円、Gが1億5,000万円、Hが5,000万円となります。

設問( 3 )相続税の基礎控除額や相続税の総額を計算する場合の「法定相続人の数」は何人か

相続税の基礎控除額や相続税の総額を計算する場合の「法定相続人の数」は、民法で規定する相続人の数から修正をします。具体的には次のとおりです。

  • 相続の放棄があった場合には、その放棄がなかったものとする
  • 被相続人に実子がある場合には1人まで
  • 被相続人に実子がなく養子の数が2人以上である場合は2人まで

本問の場合、被相続人Aには実子(長女C)がいるため、養子の数には制限があります。「法定相続人の数」に含めることができるのは1人だけです。

ところが、この制限規定にも例外があります。例外の例外ともいうべきものです(相続税法15条3項)。次に該当する場合には「実子」とみなされるため、養子制限の適用を受けません。

  • 被相続人と特別養子縁組をした人
  • 配偶者と特別養子縁組をした養子で、被相続人の養子となった人
  • 被相続人の配偶者の実子で、被相続人の養子となった人
  • 実子または養子またはその直系卑属(子や孫)が、死亡や相続権喪失をしたために代襲相続人となった人

本問では、Aの死亡前に養子Dは死亡しており、GとHがその地位を代襲相続しています。このため、GとHはAの実子とみなされることになり、養子制限の適用を受けません。

このため、Aの「実子」として長女CとGとHの3人が「法定相続人の数」に算入され、養子であるEとFのうち1人が「法定相続人の数」に算入されます。

以上から、相続税の基礎控除額や相続税の総額を計算する場合の「法定相続人の数」は、配偶者B、長女C、G(D代襲)、H(D代襲)と、養子Eと養子Fのうち1人の5人となります。

設問( 4 )孫養子Gの納付すべき相続税額はいくらか

Gの納付すべき相続税額の計算の前提として、他の人の相続税額も計算します。

( 1 )基礎控除額の計算

民法上、被相続人Aの相続人は、配偶者B、長女C、養子E、養子F、養子G(Dの代襲)、H(Dの代襲)の6人です。

いっぽう、上記のとおり、相続税の基礎控除額の計算の基礎となる「法定相続人の数」は5人です。

基礎控除額は、3,000万円× 600万円×法定相続人の数(5人)= 6,000万円です。

( 2 )正味の財産の課税価格の合計額の集計

Aの遺産分割協議では、10億円を法定相続分に従って分割しています(設問(2)参照)。Bが5億円、Cが1億円、Eが1億円、Fが1億円、Gが1億5,000万円、Hが5,000万円となります。

( 3 )課税遺産総額の計算

課税遺産総額は、正味の財産の課税価格の合計額(10億円)から基礎控除額(6,000万円)を差し引いた額です。

10億円− 6,000万円= 9億4,000万円

( 4 )課税遺産総額を「法定相続分」で割り振り

実際に誰がどの財産を取得したかとは無関係に、課税遺産総額を「法定相続分」で割り振ります。

正味の財産の課税価格の合計額(10億円)ではなく、基礎控除額を差し引いた課税遺産総額(9億4,000万円)です。

ところで、相続税の総額の計算の基礎となる「法定相続人の数」には、相続放棄をした人はしなかったものとして含め、いっぽう、実子がある場合の養子の数は1人までと制限されています。ただし、養子の代襲相続人は実子とみなされます。

本問では、相続税の基礎控除額や相続税の総額を計算する場合の「法定相続人の数」は、配偶者B、長女C、G(D代襲)、H(D代襲)と、養子Eと養子Fのうち1人の5人となります(設問(3)参照)。

次にこれを前提とした法定相続分を検討します。 ここでの相続人の数は、B、C、EまたFのうち1人、G(D代襲)、H(D代襲)の5人となります。法定相続分は、配偶者と子で1/2ずつということになりますが、ここでポイントとなるのがGです。GはAの養子であり、Aの子という身分での相続分と、死亡したDの代襲相続人という身分での相続分(Dの子はGとHなので1/2ずつ)を併せ持つということになります。

まず、Dが死亡していない場合には、配偶者Bは1/2、子はC、D、EまたはFのうち1人、G(孫養子)の4人で1/8ずつの相続分があります。次に、Dは死亡しているため本来のDの相続分1/8をDの子のGとHで1/16ずつ代襲相続します。

このため、GはAの子としての相続分1/8と、Dの子としての代襲相続分1/16の合計3/16の相続分があります。

以上から、ここでの法定相続分は、Bが1/2、Cが1/8、EまたはFのうち1人が1/8、Gが3/16、Hが1/16となります。

課税遺産総額(9億4,000万円)を、Bに1/2、Cに1/8、EまたはFのうち1人に1/8、Gに3/16、Hに1/16で割り振ります。

Bは4億7,000万円(= 9億4,000万円× 1/2)、Cは1億1,750万円(= 9億4,000万円× 1/8)、EまたはFのうち1人に1億1,750万円(= 9億4,000万円× 1/8)、Gは1億7,625万円(= 9億4,000万円× 3/16)、Hは5,875万円(= 9億4,000万円× 1/16)となります。

( 4 )相続税の総額の計算

課税遺産総額を法定相続人に法定相続分で割り振った額について、法定相続人ごとに相続税額を算定します。 この額が各人の納税額ではありません。

相続税額の計算には速算表を用います。

Bは「6億円以下」となります(税率50%、控除額4,200万円)。

4億7,000万円× 50%− 4,200万円= 1億9,300万円

C、養子1人(EまたはF)、Gの3人はいずれも「2億円以下」となります(税率40%、控除額1,700万円)。

Cは、1億1,750万円× 40%− 1,700万円= 3,000万円

EまたはFは、1億1,750万円× 40%− 1,700万円= 3,000万円

Gは、1億7,625万円× 40%− 1,700万円= 5,350万円

Hは、「1億円以下」となります(税率30%、控除額700万円)。

5,875万円× 30%− 700万円= 1,062.5万円

5人の合計額3億1,712.5万円(= 1億9,300万円+ 3,000万円+ 3,000万円+ 5,350万円+ 1,062.5万円)が相続税の総額となります。

( 5 )各人ごとの相続税額の計算

相続税の総額を、各人に実際に取得した正味の財産の課税価格に応じて割り振ります。

「各人が実際に取得した正味の財産の課税価格」であって、合計すれば正味の財産の課税価格の合計額となります。

相続税の総額の計算では、正味の財産の課税価格の合計額(10億円)ではなく基礎控除額(6,000万円)を差し引いた課税遺産総額(9億4,000万円)を法定相続分で割り振りましたが、ここでは、正味の財産の課税価格の合計額を各人が実際に取得した正味の課税価格の割合(あん分割合)で割り振ります。

Bは、3億1,712.5万円× 0.500(= 5億円/10億円)= 1億5,856万2,500円

Cは、3億1,712.5万円× 0.100(= 1億円/10億円)= 3,171万2,500円

Eは、3億1,712.5万円× 0.100(= 1億円/10億円)= 3,171万2,500円

Fは、3億1,712.5万円× 0.100(= 1億円/10億円)= 3,171万2,500円

Gは、3億1,712.5万円× 0.150(= 1億5,000万円/10億円)= 4,756万8,750円

Dは、3億1,712.5万円× 0.050(= 5,000万円/10億円)= 1,585万6,250円

1億5,856万2,500円(B)+ 3,171万2,500円(C)+ 3,171万2,500円(E)+ 3,171万2,500円(F)+ 4,756万8,750円(G)+ 1,585万6,250円(H)= 3億1,712.5万円

( 6 )配偶者Bの納付額の計算

各人の相続税額から控除額等の加減算を行った額が納付すべき税額となります。

Bは、配偶者に対する相続税額の軽減(相続税法19条の2)を適用します。これは、配偶者が取得した正味の財産の課税価格が、「1億6,000万円」か「配偶者の法定相続分相当額」のいずれか大きい額までは相続税がかからないとされる制度です。

Bが取得した正味の財産の課税価格は5億円であり、正味の財産の課税価格の合計額10億円の法定相続分(1/2)相当額と同じです。1億6,000万円とBの法定相続分相当額(5億円)の大きい方(5億円)まではBに相続税はかかりません。

正味の財産の課税価格の合計額(10億円)×配偶者の法定相続分(1/2)= 5億円です。5億円と1億6,000万円のうち大きい額(5億円)が課税価格の合計額のうち配偶者の法定相続分相当額となります。いっぽう、Bが実際取得した課税価格は5億円で、相続税の総額は3億1,712.5万円です。

配偶者の相続税額の軽減の基礎となる金額は「相続税の総額 ×(配偶者が取得した課税価格と配偶者の法定相続分相当額のいずれか小さい額) /  課税価格の合計額」で計算されます。

Bが取得した課税価格(5億円)と配偶者の法定相続分相当額(5億円)のいずれか小さい額(同額ですが・・・)は5億円です。

配偶者の相続税額の軽減の基礎となる金額は、3億1,712.5万円× 5億円/10億円= 1億5,856万2,500円となります。

いっぽう、配偶者の相続税額の軽減の限度額は、相続税の総額をBが実際に取得した財産の課税価格で割り振った額(上記の1億5,856万2,500円)です。

以上から、本問のBの場合、配偶者の相続税額の軽減の基礎となる金額と軽減の限度額が一致しますので、Bの相続税額の軽減額は、1億5,856万2,500円となります。

よって、Bの納税額は、Bに割り振られた1億5,856万2,500円から軽減額1億5,856万2,500円を差し引いたゼロとなります。

( 7 )代襲相続人である孫養子Gの納付額の計算

被相続人から財産を取得した者のうち、いわゆる孫養子は相続税が2割加算されます(相続税法18条2項)。

孫養子は、条文では「被相続人の直系卑属が当該被相続人の養子となつている」となっています。被相続人の直系卑属とは、子や孫や曾孫をいいます。

いっぽう、被相続人の一親等の血族は2割加算はありません(同18条1項)。一親等の血族は父母または子であること、そもそも養子は子であることから、「被相続人の直系卑属が当該被相続人の養子となつている」における「被相続人の直系卑属」とは被相続人の孫といえます。

つまり、被相続人の孫でありながら、被相続人と養子縁組をして子でもあるということになります。

ところが、相続税法18条1項によれば、2割加算のない被相続人の一親等の血族には、かっこ書で(当該被相続人の直系卑属が相続開始以前に死亡し、又は相続権を失つたため、代襲して相続人となつた当該被相続人の直系卑属を含む。)とあります。

つまり、孫養子は原則として2割加算となりますが、孫養子が代襲相続人である場合には、被相続人の一親等の血族に含まれることになります。よって2割加算はありません。

( 8 )各人の納付すべき相続税額

なお、配偶者、一親等の血族(養子を含みます。)は2割加算はありません。

以上から、各人の納付すべき相続税額(100円未満を切り捨てます。)は、Bが0円、Cが3,171万2,500円、Eが3,171万2,500円、Fが3,171万2,500円、Gが4,756万8,700円(100円未満切り捨て)、Gが1,585万6,200円(100円未満切り捨て)となります。

コメント

孫養子でも代襲相続人となった場合の効果として、「子(養子)としての地位と代襲相続人としての地位をもつ(法定相続分が大きくなる)」「相続税法上実子となる(このために他の養子の養子制限に影響を与える)」「代襲相続人になったために相続税額の2割加算が行われない」があります。

余談ですが、「代襲相続人となりうる孫養子が相続放棄をした場合の相続税の2割加算はあるか?」について検討します。

まず、「相続放棄するだから財産を取得していないのになんで相続税の2割加算が議論されるのか」という疑問が生じます。たしかにおっしゃるとおりなのですが、たとえば、その孫養子が死亡保険金を受け取っているとします。死亡保険金を受け取ると、相続税法上は「相続または遺贈によって取得したとみなされる」ことになって相続税が課されるのです。

このとき、代襲相続人となれば実子とみなされる孫養子が相続放棄をした場合には、「ほんらい孫養子は2割加算(原則)」「しかし代襲相続人だから実子となるため2割加算は適用されない(例外)」「ところが代襲相続人の地位を放棄したのだから元にもどって2割加算」というロジックになります。

( つづく )