( 5 )設例と数値例 相続放棄・養子制限 Part2

今回から、いわゆる「孫養子」と養子制限について検討します。孫養子とは、孫を養子にすることです。

また、「死亡保険金を相続放棄した人が受け取った場合と非課税制度の適用の有無」「養子が受け取った死亡保険金と非課税制度の適用の有無」と検討する事案でもあります。

事例

  • 被相続人Aの家族は、配偶者B、長女C、養子D、養子E、養子F、養子G(Dの子)、H(Dの子)です。
  • 養子は全員が特別養子縁組による養子ではありません。
  • GとHは、養子Dの子です。つまり、Aからみると孫です。GはAの孫ながらAと養子縁組しています(孫養子)。
  • 遺産分割協議で、Aの相続財産10億円を民法の法定相続分に従って分割しました。

設問

設問( 1 )民法上の相続人は誰か

被相続人の配偶者は常に相続人となり(民法890条)、また、被相続人の子も相続人となります(民法887条)。よって、配偶者B、長女Cは相続人となります。

また、養子は、養子縁組の日から養親の嫡出子の身分を取得します(民法809条)。よって、養子D、養子E、養子Fと養子Gは被相続人Aの相続人となります。

以上から、被相続人Aの民法上の相続人は、B、C、D、E、F、Gの6人となります。

設問( 2 )遺産分割協議で誰がいくら取得したか

被相続人Aの民法上の相続人は、B、C、D、E、F、Gの6人となります。法定相続分は、配偶者と子で1/2ずつ、子は5人で1/10ずつです。よって、Bが1/2、Cが1/10、Dが1/10、Eが1/10、Fが1/10、Gが1/10となります。

Aの遺産分割協議では、10億円を法定相続分に従って分割したので、Bが5億円、Cが1億円、Dが1億円、Eが1億円、Fが1億円、Gが1億円となります。

設問( 3 )相続税の基礎控除額や相続税の総額を計算する場合の「法定相続人の数」は何人か

相続税の基礎控除額や相続税の総額を計算する場合の「法定相続人の数」は、民法で規定する相続人の数から修正をします。具体的には次のとおりです。

  • 相続の放棄があった場合には、その放棄がなかったものとする
  • 被相続人に実子がある場合には1人まで
  • 被相続人に実子がなく養子の数が2人以上である場合は2人まで

本問の場合、被相続人Aには実子(長女C)がいるため、養子の数には制限があります。養子はDとEとFとGの4人ですが、「法定相続人の数」に含めるのは1人だけです。

以上から、相続税の基礎控除額や相続税の総額を計算する場合の「法定相続人の数」は、配偶者B、長女C、養子1名の3人となります。

設問( 4 )孫養子Gの納付すべき相続税額はいくらか

Gの納付すべき相続税額の計算の前提として、他の人の相続税額も計算します。

( 1 )基礎控除額の計算

民法上、被相続人Aの相続人は、配偶者B、長女C、養子D、養子E、養子F、養子G(Dの子)の6人です。

ただし、相続税の基礎控除額の計算の基礎となる「法定相続人の数」には、実子がある場合の養子の数は1人までと制限されています。

本問では、配偶者B、長女C、養子1名の3人となります。

基礎控除額は、3,000万円× 600万円×法定相続人の数(3人)= 4,800万円です。

( 2 )正味の財産の課税価格の合計額の集計

Aの遺産分割協議では、10億円を法定相続分に従って分割しています(設問(2)参照)。Bが5億円、Cが1億円、Dが1億円、Dが1億円、Eが1億円、Fが1億円、Gが1億円です。

( 3 )課税遺産総額の計算

課税遺産総額は、正味の財産の課税価格の合計額(10億円)から基礎控除額(4,800万円)を差し引いた額です。

10億円− 4,800万円= 9億5,200万円

( 4 )課税遺産総額を「法定相続分」で割り振り

実際に誰がどの財産を取得したかとは無関係に、課税遺産総額を「法定相続分」で割り振ります。

正味の財産の課税価格の合計額(10億円)ではなく、基礎控除額を差し引いた課税遺産総額(9億5,200万円)です。

ところで、相続税の総額の計算の基礎となる「法定相続人の数」には、相続放棄をした人はしなかったものとして含め、いっぽう、実子がある場合の養子の数は1人までと制限されています。

本問では、配偶者B、長女C、養子1名の3人となります(設問(3)参照)。

これを前提にした法定相続分は配偶者と子2人で1/2ずつ、すなわち、Bが1/2、Cが1/4、D、E、FまたはGで1/4です。

課税遺産総額(9億5,200万円)を、Bが1/2、Cが1/4、D、E、FまたはGで1/4に割り振ります。

Bは4億7,600万円(= 9億5,200万円× 1/2)、Cは2億3,800万円(= 9億5,200万円× 1/4)、D、E、FまたはGで2億3,800万円(= 9億5,200万円× 1/4)です。

( 4 )相続税の総額の計算

課税遺産総額を法定相続人に法定相続分で割り振った額について、法定相続人ごとに相続税額を算定します。 この額が各人の納税額ではありません。

相続税額の計算には速算表を用います。

Bは「6億円以下」となります(税率50%、控除額4,200万円)。

Bは、4億7,600万円× 50%− 4,200万円= 1億9,600万円

Cと養子1人(D、E、FまたはG)の2人はいずれも「3億円以下」となります(税率45%、控除額2,700万円)。

Cは、2億3,800万円× 45%− 2,700万円= 8,010万円

D、E、FまたはGは、2億3,800万円× 45%− 2,700万円= 8,010万円

3人の合計額3億5,620万円(= 1億9,600万円+ 8,010万円+ 8,010万円)が相続税の総額となります。

( 5 )各人ごとの相続税額の計算

相続税の総額を、各人に実際に取得した正味の財産の課税価格に応じて割り振ります。

「各人が実際に取得した正味の財産の課税価格」であって、合計すれば正味の財産の課税価格の合計額となります。

相続税の総額の計算では、正味の財産の課税価格の合計額(10億円)ではなく基礎控除額(4,800万円)を差し引いた課税遺産総額(9億5,200万円)を法定相続分で割り振りましたが、ここでは、正味の財産の課税価格の合計額を各人が実際に取得した正味の課税価格の割合(あん分割合)で割り振ります。

Bは、3億5,620万円× 0.5(= 5億円/10億円)= 1億7,810万円

Cは、3億5,620万円× 0.1(= 1億円/10億円)= 3,562万円

Dは、3億5,620万円× 0.1(= 1億円/10億円)= 3,562万円

Eは、3億5,620万円× 0.1(= 1億円/10億円)= 3,562万円

Fは、3億5,620万円× 0.1(= 1億円/10億円)= 3,562万円

Gは、3億5,620万円× 0.1(= 1億円/10億円)= 3,562万円

1億7,810万円(B)+ 3,562万円(C)+ 3,562万円(D)+ 3,562万円(E)+ 3,562万円(F)+ 3,562万円(G)= 3億5,620万円

( 6 )配偶者Bの納付額の計算

各人の相続税額から控除額等の加減算を行った額が納付すべき税額となります。

Bは、配偶者に対する相続税額の軽減(相続税法19条の2)を適用します。これは、配偶者が取得した正味の財産の課税価格が、「1億6,000万円」か「配偶者の法定相続分相当額」のいずれか大きい額までは相続税がかからないとされる制度です。

Bが取得した正味の財産の課税価格は5億円であり、正味の財産の課税価格の合計額10億円の法定相続分(1/2)相当額と同じです。1億6,000万円とBの法定相続分相当額(5億円)の大きい方(5億円)まではBに相続税はかかりません。

正味の財産の課税価格の合計額(10億円)×配偶者の法定相続分(1/2)= 5億円です。5億円と1億6,000万円のうち大きい額(5億円)が課税価格の合計額のうち配偶者の法定相続分相当額となります。いっぽう、Bが実際取得した課税価格は5億円で、相続税の総額は3億5,620万円です。

配偶者の相続税額の軽減の基礎となる金額は「相続税の総額 ×(配偶者が取得した課税価格と配偶者の法定相続分相当額のいずれか小さい額) /  課税価格の合計額」で計算されます。

Bが取得した課税価格(5億円)と配偶者の法定相続分相当額(5億円)のいずれか小さい額(同額ですが・・・)は5億円です。

配偶者の相続税額の軽減の基礎となる金額は、3億5,620万円× 5億円/10億円= 1億7,810万円となります。

いっぽう、配偶者の相続税額の軽減の限度額は、相続税の総額をBが実際に取得した財産の課税価格で割り振った額(上記の1億7,810万円)です。

以上から、本問のBの場合、配偶者の相続税額の軽減の基礎となる金額と軽減の限度額が一致しますので、Bの相続税額の軽減額は、1億7,810万円となります。

よって、Bの納税額は、Bに割り振られた1億7,810万円から軽減額1億7,810万円を差し引いたゼロとなります。

( 7 )孫養子Gの納付額の計算

被相続人から財産を取得した者のうち、いわゆる孫養子は相続税が2割加算されます(相続税法18条2項)。

孫養子は、条文では「被相続人の直系卑属が当該被相続人の養子となつている」となっています。被相続人の直系卑属とは、子や孫や曾孫をいいます。

いっぽう、被相続人の一親等の血族は2割加算はありません(同18条1項)。一親等の血族は父母または子であること、そもそも養子は子であることから、「被相続人の直系卑属が当該被相続人の養子となつている」における「被相続人の直系卑属」とは被相続人の孫といえます。

つまり、被相続人の孫でありながら、被相続人と養子縁組をして子でもあるということになります。

本問では、孫養子であるGは相続税が2割加算されます。Gの相続税額は3,562万円ですが、3,562万円の2割(712.4万円)が加算された4,274.4万円となります。

( 8 )各人の納付すべき相続税額

配偶者、一親等の血族(養子を含みます。)は2割加算はありません。

以上から、各人の納付すべき相続税額は、Bが0円、Cが3,562万円、Dが3,562万円、Eが3,562万円、Fが3,562万円、Gが4,274.4万円となります。

コメント

本事例は、「養子数の制限」に加えて、「孫養子の2割加算」についての計算例を入れました。

次回では、孫養子が代襲相続人になった場合に、「養子制限がどうなるのか」、「2割加算は適用されるのか」について検討します。

( つづく )