親子間や夫婦間といった個人間の借入金(貸付金)の利息は支払う必要があるか

「親子間の借入金でも利息を付けなければいけないか?」多くのサイトにその答えがあふれています。

利息を付ける最大の理由、それは「贈与税課税の回避」にあります。

利息を付すこととした場合、利息をもらった貸し手は、受け取った利息を「雑所得」として確定申告するのが原則です。

いっぽう、利息を付すこととしたのに利息を支払わなくて済んだ借り手は、支払わなくて済んだ利息相当額は贈与税の課税対象となります。

どう対処すべきか、それは個々の事情により異なります。

そもそも親族間に贈与税ってかかるのか?

おカネなどの財産をもらった、つまり、贈与を受けた場合、財産の額に対して贈与税がかかります。

ここで、「親子間や夫婦間での贈与に対して贈与税ってかかるのか?」という素朴な疑問が生じます。ずばり贈与税はかかります。なぜなら、ルール上、贈与税の配偶者控除(相続税法21条の6)や直系尊属から贈与を受けた場合の贈与税のさまざまな特例(租税特別措置法70条の2の2~70条の2の5)があるということは、その前提として「親子間や夫婦間でも贈与税は課税される」ことを意味するからです。

とってもおそろしい贈与税リスク

さて、少なくとも現在、課税当局(税務署)は、親子間や夫婦間での贈与の有無について、税務調査をしないかぎり逐一把握していない・・・かもしれません。

ただ、所得のない人、あるいは、所得の少ない人が、登記や登録によって所有者が明らかになる財産(不動産や自動車など)の所有者となった場合、当局は、「その取得資金はどこから出たのか」に着眼して調査します。贈与があったと認定された場合、その取得資金は贈与税の課税対象となります。

例えば、1億円で購入した不動産について、妻名義で登記をし、妻はこの不動産を他人に貸し付け、その所得を確定申告するとします。ところがこの不動産の購入資金1億円は夫が出していたとします。この1億円につき「主張」がなかった場合、妻は夫から1億円の贈与を受けたとして、1億円に対して贈与税が課されます。

夫婦間の贈与(暦年課税とします。)は一般贈与財産のため、5,039.5万円というとんでもない額を納付しなければなりません。たいがいは申告していないため、さらに無申告加算税などの罰金も加わります。この額を夫が代わりに納付してまたもや「主張」がなかった場合、妻はこの贈与税等の額についても贈与を受けたものとして贈与税が課されます。

贈与ではなくて借入れだ

そこで、「主張」がポイントになります。つまり、「贈与ではなくて借入れです」という主張です。

上記の例では、1億円を借り入れた場合には、贈与を受けていないため贈与税は課されようがありません。

多数の書籍やサイトで「借用書や金銭消費貸借契約書を作って、その通りに返済しましょう。返済していないと贈与と認定されるリスクがあります」とあるのはこのためです。

ところで、本来、借入金について利息を付すか付さないか、返済のスケジュールをどうするかについては、当事者同士で自由に決めることができます(契約自由の原則)。

このため、元本の返済は借入期間の末日に一括返済、利息も返済時に一括支払いとすることもできます。

ただ、返済期限までにまったく返済も利息の支払いもないと、貸付時(借入時)に金銭消費貸借契約書を公正証書で作っておくなどしないかぎり、「贈与ではなく借入れだ」という説得力はかなり弱いものとなります。

しかも、ありがちなこととして、税務調査の前にあわてて金銭消費貸借契約書をこしらえたものの、日時や住所や印鑑などの矛盾が出て、「贈与ではなく借入れです」と主張したかったのに結果的に「借入れでなくて贈与です」を主張した形になってしまい、「仮装隠ぺい」からの重加算税を科されることになります。

借入れであることの証明

重要なのは、「借入れです」と主張することよりも、「ほら、借入れですよね」と証明できることです。

そこで、金銭消費貸借契約の内容として、返済期限までに定期的な元本の返済や利息の支払いをうたい、それどおりにおカネの移動を行うことになります。

銀行口座の取引記録を利用する

借入れであることを証明する有効な方法が、預金口座での記録を残すことです。

シンプルなのは、借り手の口座から貸し手の口座へ振り込まれることです。つまり、貸し手の通帳(口座の取引記録)に借り手の名義が記載されて入金されるようにするのです。

少なくとも「同日のうちに、借り手の口座から引き出された金額と同額が貸し手の口座に入金する」ようにします。 そうすれば、貸し手が自分のポケットマネーを自分の口座に回しているだけでは?という疑いの芽をも摘むことができます。

貸し手である個人は利息収入について確定申告を行う

貸し手である個人が貸付金の利息を受け取った場合、貸し手には所得税(および復興特別所得税)と住民税がかかります。

さて、所得税法では、所得を10種類に分け、所得の種類ごとに所得金額を計算します。

貸し手である個人が事業として(その個人は個人事業主ということになります。)貸し付けた場合、その受取利息は事業所得の収入金額となります。

貸し手である個人が事業として貸し付けたのではない場合には、その利息収入は雑所得の収入金額となります。

実は、10種類の所得のなかに「利子所得」というのがあるのですが、利子所得とは、公社債および預貯金の利子ならびに合同運用信託、公社債投資信託および公募公社債等運用投資信託の収益の分配に係る所得をいうため(所得税法23条)、利子所得には該当しません(35条)。

もっとも、事業所得にしても利子所得にしても雑所得にせよ、所得がプラスの場合には実質的な差はありません。なぜなら、所得税の計算にあたっては、これらの所得を合計するからです(総合課税)。雑所得はマイナスでもゼロになる(他のプラスの所得と通算できない)点で異なりますが、貸付金の利息収入がマイナスになることは通常はないと思われます。

そして、他の所得と合算された額から基礎控除などの所得控除額を差し引いた課税所得金額に所得税と住民税が課されます。

さて、別の所得金額が大きく、その年分の課税所得金額が4,500万円を超える場合、国税である所得税(と復興特別所得税)の税率は、最高45.945%、地方税である住民税(道府県民税・都民税と市町村民税・区民税)の税率は原則10%です。合計すると、55.945%、どんな少額な利息収入であってもその半額以上は税金でもっていかれるということになります。

ところで、「20万円以下の所得なら確定申告しなくていい」という規定があります(所得税法121条1項、所得税法施行令262条の2)。

ただし、この規定は、給与所得があり、しかも、給与収入が2,000万円以下である人について、給与所得と退職所得を除いた他の所得金額(その年分の利子所得の金額、配当所得の金額、不動産所得の金額、事業所得の金額、山林所得の金額、譲渡所得の金額、一時所得の金額及び雑所得の金額の合計額)が20万円以下である場合に適用されます。

給与所得がなく、もともと確定申告をしなければならない人は、1円の雑所得であっても申告しなければなりません。

また、上記の要件を満たしても、同族会社の役員またはその関係者が、法人に対して貸付けを行って利息を受け取っている場合には、その額が年20万円以下であっても確定申告をしなければなりません(所得税法施行令262条の2)。

また、「所得税」の確定申告は要しない場合であっても、「住民税」すなわち個人都民税、個人道府県民税、個人区民税、個人市町村民税の確定申告は必要です。

つまり、利息収入に対して10%の税額がかかることになります。

貸し手の財産の変化と相続の開始

貸し手の財産構成の変化でとらえてみましょう。

債権か現金かの違いにすぎない

貸し手が親族(とくに推定相続人とします。)におカネ100を貸し付けた場合、貸し手の財産は現預金100という現実のおカネから貸付金という債権100に入れ替わります。

貸付金元本の返済10があると、貸付金債権10は再び現預金10に入れ替わり、現預金10と貸付金債権90になります。 また、貸付金から利息が発生する場合、時間の経過にしたがって未収利息という債権が発生します。年間3の利息が発生するとすると、未収利息債権3が発生し、利息を受け取ることで未収利息債権は現預金3に入れ替わります。 利息に所得税等が課されると、受け取った利息の一部から税金1の納付によってキャッシュが流出します。つまり、現預金2が残ることになります。

つまり、理論的には、貸付金に係る貸し手の財産は、当初の貸付金から時間の経過により貸付金債権と現預金との構成割合が変わるだけであり、いっぽうで、時間の経過とともに貸付金利息の未収債権(所得税相当額の控除後)が発生・増加してゆき、借り手からの入金によって現預金との構成割合が変わっていくことになります。

相続と混同による消滅

ここで、貸し手に相続が開始します。

さて、親が子に対して貸付金(債権)があり(子は親に対して借入金債務があり)、親に相続が開始し、子(相続人)が親(被相続人)の貸付金債権を相続したとします。すると、「自分に対する貸付金債権」と「自分に対する借入金債務」が生じることになり、結果的に貸付金債権と借入金債務は消滅します。民法でいう混同(520条)です。

しかし、相続税の申告では、混同による消滅前の財産で課税財産の金額と相続税を計算します。(借入金債務があった)相続人本人が被相続人から貸付金債権を取得してはじめて混同で消滅するわけですから当然といえば当然です。

上記の例でいうと、他の財産を除くと、当初の現預金100から入れ替わった貸付金債権100が、相続開始までに返済によって一部が現預金に入れ替わっており(貸付金債権70と現預金30とします。)、利息による未収利息債権(現預金として入金していないもの)5と未収債権の入金から入れ替わった現預金の税引後の増加額(3とします。)を合計して、貸付金債権70と未収利息債権5と現預金33の合計108が相続税の課税財産となります。

遺産分割または遺言により、貸付金債権70と未収利息債権5の合計75を相続人である借り手自身が相続した場合、民法的には混同により75は消滅してしまいますが、相続税の計算上は混同消滅前の額となります。

なお、貸付金債権70と未収利息債権5を借り手である相続人とは別の相続人が取得した場合、借り手はその別の相続人に返済や支払いを行うことになります。

利息に対して二重課税

重要な点は、金銭消費貸借契約で利息を付すことにしたことで、未収利息債権と利息に係る税引後の現預金についてはあらためて相続税が課されているということです。 つまり、貸付金利息について、まずは貸し手(生前の被相続人)に所得税が課税され、さらに相続税が課税されているのです。

ただ、これは貸付金利息に特有というわけではなく、そもそも被相続人の財産というのは、いったん親から相続税の課税を受けて取得した財産や、所得税が課税された後の財産の蓄積です。相続税の課税とは本質的に二重課税なのです。

当事者間で利息を付すべきか

借入金について利息を付すか付さないかについては、当事者同士で自由に決めることができます(契約自由の原則)。

ただし、利息については、税法上は無利息や低利息にした場合には思わぬ課税がなされることがあります。とはいえ、このような課税は、当事者(借り手と貸し手)の関係性によります。たとえば、貸し手が法人である場合、無償で貸付けを行うと、利息相当額について課税が行われます。

少なくとも個人と個人、とくに、事業とは異なる使途での貸し借りの場合には利息を付さないからといってただちに課税上の問題が生じるわけではありません。

むしろ、利息を付すかどうかという話は、「元本の返済をしない場合であっても、借入れであることを証明するため」に必要なものといえます。

ただ、利息を付すと、貸し手には利息収入に対して所得税がかかるだけでなく、貸し手に相続が発生した場合には、借り手から受け取った利息額(税引後)の累計額に対して相続税がかかることになります。

どうすればよいでしょう。

利息は発生するが、免除する

では、貸し手も借り手も個人である当事者間において、無利息ではなく利息を付すことにしたものの、利息の受払いがない場合はどうなるでしょうか。

利息を付すことにした以上、貸し手である個人には、実際の利息の入金がなくとも利息収入(雑所得)があることになります。

もっとも、利息を受け取ることを免除した場合にはどうなるでしょうか。

この場合、貸し手である個人は借り手である個人に対して利息支払いを免除、すなわち、無償の経済的利益を与えたと構成し、借り手である個人に対する贈与になるといえます。

すると、借り手としては「個人からの贈与により取得するもの(所得税法9条1項16号)」として所得税ではなく贈与税の課税対象となります。

この場合、貸し手と借り手の関係が相続時精算課税制度の適用を受けている場合、非課税枠(2,500万円)を超えた部分について20%の贈与税が課されます。相続時精算課税制度の適用を受けていない場合には、暦年課税となるため、他の贈与額と合わせて年間110万円に達しなければ贈与税はゼロとなります。

重要なのは、課税されるのは、利息を受け取るべき貸し手(将来の被相続人)ではなく、利息を支払うことを免除された借り手(将来の相続人)であることです。

そして、相続時精算課税の適用を受けている場合には、対象となる贈与(利息免除額)の額はすべて相続税の課税財産に加算されて相続税の課税対象となりますが、暦年課税の場合には、相続開始前3年間の贈与の額だけが相続税の課税財産に加算されます。

結局、どちらがトクなのかについては全体を俯瞰してよく検討する必要があると思われます。

(おわり)