銀行口座取引の自動仕訳の相手勘定は債権債務勘定を使いましょう
かつて(今も?)、作業負荷の軽減のため期中は債権債務勘定(売掛金a/c、未払金a/cなど)を使わず、入出金の相手科目をすべて損益勘定(売上高や○○費)にして会計処理をするなんちゃって発生主義会計が多く行われてきました。
経営で重要なことは「売り上げたおカネがちゃんと入金したかどうか」「支払うべきおカネをちゃんと払えるかどうか(=そのための資金繰りができているかどうか)」にあるわけですが、なんちゃって発生主義会計ではこの役割を帳簿上まったく果たせていないばかりか、深刻なのは、会計帳簿とは別に売掛金の消し込みや買掛金の支払いをシステムやExcelで細かく管理しているものです。
銀行口座の取引情報を会計ソフトに取り込める自動仕訳が可能になって久しいです。 それならば、売上代金の入金取引や債務の支払取引については、相手勘定は損益勘定ではなく債権債務勘定にすべきです。
要は「会計帳簿でできることは会計帳簿でやりましょう」ということなのです。
そして、債権債務の計上にあたっては、いちいち会計ソフトに入力するのではなく、システムExcelシートに入力した情報を仕訳テンプレートに加工して一気にインポートすればよいのです。
なんちゃって発生主義会計
かつて(今も?)、会計事務所が領収書などをごっそりクライアントから預かって、あるいは、クライアントで職員がシコシコ手書きで伝票を作成して、事務所で(別の)職員が伝票を見ながら会計ソフトにバカスカ入力するという時代がありました。
目で(領収書や通帳を)見て、手で(伝票に)書いて、それ(伝票)をまた見て、手で(会計ソフト)入力するわけですから、見間違い、書き間違い、入力し間違いのオンパレードで、やれ「通帳と残高が合わない、どこで間違ったんだろう」で原因究明と修正に悶々とムダな時間が流れたものです。
その後(今も?)、クライアントに会計ソフトが入る時代になると、クライアントの担当者に会計ソフトに入力してもらい、それを職員がチェックするという時代になりました(いわゆる「自計化」)。
これは、会計事務所がやっていた作業をクライアントに移したにすぎず、本質的なことはあまり変わっていません。
このような状況では、いかに作業負荷と間違いを減らすかが重要なポイントとなります。
たとえば、債権(売掛金と売上高)の認識とその回収について、本来的ならば仕訳は次の2本です。
(借) | 売掛金 | XXXX | (貸) | 売上高 | XXXX |
(借) | 預金 | XXXX | (貸) | 売掛金 | XXXX |
また、債務(○○費と未払金)の認識とその支払いについても、次の2本です。
(借) | ○○費 | XXXX | (貸) | 未払金 | XXXX |
(借) | 未払金 | XXXX | (貸) | 預金 | XXXX |
そこで、作業負荷と間違いを減らすために、債権勘定(売掛金a/cや未収入金a/cなど)や債務勘定(買掛金a/cや未払金a/cなど)を一切使わず、預金勘定の相手科目をすべて損益勘定(売上高a/cや仕入a/cや○○費a/cなど)にしてしまうのです。
まず、債権の発生のときは仕訳を切らずに入金の時に仕訳を切るのです。
(借) | 預金 | XXXX | (貸) | 売上高 | XXXX |
同様に、債務の発生のときは仕訳を切らずに支払いの時に仕訳を切るのです。
(借) | ○○費 | XXXX | (貸) | 預金 | XXXX |
銀行口座の取引情報をダイレクトに、あるいは、CSVなどから会計ソフトに取り込める自動仕訳が可能になって久しいですが、ポピュラーな会計ソフトでさえ、相手勘定を損益勘定(売上高や仕入高や○○費など)で処理できるようになっています。ご丁寧に消費税の設定(軽減税率やインボイス対応)も可能になっています。
このように、入金取引や出金取引の相手勘定はすべて損益(売上高や仕入高や○○費)にして、決算の時だけに売掛金a/cや買掛金a/cを計上する方法がおそらく今でも相当数の実務で行われています。
私はこれを「なんちゃって発生主義会計」と言っています。
なんちゃって発生主義会計のホントのヤバい点
なるほど、なんちゃって発生主義会計は仕訳が半分に減るため効率がとても上がります。
一方、なんちゃって発生主義会計の欠点として、期中の月次決算は損益計算ではなく入出金だけの収支計算にすぎないため著しく精度に欠ける点が挙げられます。
そのような点を理解しているのかしていないのかはさておき、そういう月次決算をベースに経営会議だとかを平然とする、平然とさせてしまうことも問題です。
事業会社にせよ会計事務所にせよ、一つの職場でずっと働かれていて、そこでの会計処理しか知らないままずっと来てしまっていたり、組織風土にアタマまでどっぷり浸かってしまっていると、どこが悪いのかと開き直る方も一定数いらっしゃいます。
ここで、経営で重要なことは何かについて確認してみましょう。
経営で重要なことは、「(全社的な)利益が出るだけの売上を出すことができるか(=ちゃんと目標利益を出せる単価で売っているかどうか)」を大前提として、経理では次の点が重要なのです。
- 売り上げたおカネがちゃんと入金したかどうか
- 支払うべきおカネをちゃんと払えるかどうか(=そのための資金繰りができているかどうか)
少なくとも、なんちゃって発生主義会計による会計帳簿では、まったく役に立ってません。
ここでまさに、なんちゃって発生主義会計のホントのヤバい点が浮き彫りになります。
実は、そういうところほど、会計帳簿とは別に売掛金の消し込みや買掛金の支払いをシステムやExcelで細かく管理しているのです。このことこそ、めちゃめちゃ業務のムダかもしれませんよねということなのです。
要は「会計帳簿でもできることは会計帳簿でやりましょう」ということなのです。
会計帳簿でできないこと(たとえば、数量管理など)について会計帳簿とは別に管理すればよいわけで、会計帳簿と似たような作業を別でやっているのは極めてムダな事務であると思われます。
銀行口座取引の相手勘定は基本債権債務勘定で
なんちゃって発生主義会計の理由が事務効率化にありました。
先ほどもコメントしましたが、銀行口座の取引情報をダイレクトに、あるいは、CSVなどから会計ソフトに取り込める自動仕訳が可能になって久しいです。テクノロジーの進化によって勝手に事務が効率化されたのです。なんちゃって発生主義会計の前提が崩れているわけです。
それならば、売上代金の入金取引や債務の支払取引については、相手勘定はすべて債権債務勘定、すなわち、売掛金a/cや未収金a/c、はたまた、買掛金a/cや未払金a/cにすべきです。
当然ですが、各勘定科目には取引相手ごとの補助科目を付けます。つまり、補助元帳で管理するということです。
これにより、教科書的な発生主義会計の帳簿になるため月次決算の精度が高くなります・・・・そんなことより、最大のメリットは、別システムやExcelなどで管理していた売掛金の消し込み、債務の把握とその支払いが会計帳簿として取り込まれ、会計帳簿上で管理できることなのです。
各得意先ごとに債権(請求額)がキチンと計上されているため、どこの入金がないかを会計帳簿上で把握することができます。逆に、支払漏れや過払いも会計帳簿上で把握することができます。
実践的なメリットとしては、なんちゃって発生主義会計では、得意先からの過入金や誤入金があった場合も売上高として処理するためワケがわからなくなってしまいます。直接損益勘定にしないことで、科目の変更やとりわけ金額の修正があった場合でも、それは債権債務の仕訳の修正となるため、自動で取り込まれる入出金仕訳そのものを修正する必要がなくなります。
債権債務の仕訳処理もいちいち入力せずテンプレートから一気にインポート
さて、なんちゃって発生主義会計をしているところは、会計帳簿とは別に、売掛金の消し込みや買掛金の支払いをシステムやExcelで細かく管理しているものです。
それならば、販売管理システムや未払システムに入力した情報を、そこまではいかなくとも請求や支払の管理のためにExcelシートに入力した情報を、余すところなく会計帳簿に再利用、再々利用するのです。
それも、いったん入力された数値等を、会計ソフト上でF○キーで登録したものを呼び出してシコシコ入力したり数値をコピペするのではなく、リストを仕訳テンプレートに加工して会計ソフトに読み込ませればよいのです。
この仕訳テンプレートを作れるか作れないかが決定的な分かれ道です。
組織の問題なのか個の問題なのかはさておき、新しいことにチャレンジできるかどうかということなのです。年取れば取るほど面倒臭くなってくるものなのですが、食らいついていく闘志、困ったときの知恵が尊いのです。
おカネがあるとすぐ人に丸投げしがちですが、それはそれで悪いことではないのですが、頼むべき人の能力や技術(仕事の速さなど)に依存してしまうばかりか、ある程度の知見がないと、その能力いかん技術いかんを評価することができない状態になります。自ら進んで要支援者になってしまっているということです。そのコストは巡り巡って顧客に転嫁されて市場での競争力に影響することになります。
さて、仕訳テンプレートは会計ソフトのマニュアルを読むことになりますが、マニュアルそのものがそもそもわかりにくいものですよね。 そんなときは、いくつかの取引のイメージで会計ソフトに仕訳を入力・登録してからエクスポートしてみましょう。これがテンプレートになります。
そのエクスポートされたデータを参考にして、今度はどういうふうに入力すれば会計ソフトにイメージどおりの仕訳がインポートされるのかがわかってきます。
試行錯誤を重ねているうちに、もともとのデータベースをどう加工すれば会計ソフトに仕訳としてインポートできるかがわかってきます。 そうすると、何千だろうが何万だろうが一気にインポートできてしまうのです。
科目体系などの設計が重要
けっきょく、勘定科目体系をどう設計するか、補助科目体系をどう設計するか、それに合わせた仕訳をどう作っていくかがますます重要になってきていると思われます。
つまり、異なる取り込むべきデータベースをうまくマッチングさせるような勘定科目体系、補助科目体系が作れるかということです。
たとえば、不動産賃貸業に関わる入金の場合、入金の中味は「翌月分の家賃」「前月分の水道光熱費」などさまざまですが、銀行口座にはテナントからすべて混ぜ混ぜで1本で入金することが少なくありません。だとすれば、売掛金a/cの補助科目はA社、B社として、銀行に入金するのもA社、B社で入金するわけですから、取り込みもなじむことになります。
ところが、売掛金a/cの補助科目を「家賃」「電気代」「水道代」とかにしてしまうと、せっかくの預金取引の自動仕訳をうまく取り込めないばかりか、科目設定のためにせっかくのテナントからの入金額をほぐして再集計するという余計な作業をしてしまうことになります。
「家賃」「電気代」「水道代」などは、債権勘定の補助科目ではなく、損益勘定またはその補助科目とすべきなのです。
これを会計事務所もまったく指導せずに長年放置されてきたことに戦慄が走ったことがあります。でもそれはそれでいいのかもです。税金の計算だけちゃんとしてればよいのでしょうから。
私の場合は、例えば販売管理システムで登録された顧客名をそのまま売掛金の補助科目として、銀行口座取引の入金ではこれら補助科目に結びつけるようにしています。
たしかに、販売管理システムで登録された顧客名は、全角と半角がメチャクチャだったり、カッコも全角と半角に分かれていたりしているものです。几帳面な人ほど直したいという欲求にかられますが、それを前提にいろいろ請求書などが発行されていることから、私はそのまま使っています。もっとも、クライアントのほうでその後に顧客名の変更があった場合には、補助科目の名称も適宜変えています。
誤解を恐れずに申し上げると、大先生(自称含みます。)ほど、現場から離れてしまい勘定科目体系をどう設計するかとか仕訳を入力するとかは「これは自分の仕事ではない」として補助者に任せてしまったり、記帳代行会社に丸投げしてしまうこともあるかもしれません。
だから私が食べていけるのです。ありがとうございます。
(おわり)